変革連合軍

変革連合軍（ACT）

変革連合軍（へんかくれんごうぐん、英語：Allied Command Transformation、略称：ACT）は、北大西洋条約機構（NATO）の軍事部門であり、機構全体の変革事業を主導、統括、そして支援する統連合軍です。2003年6月19日に、かつての大西洋連合軍を基に編成され、アメリカ合衆国バージニア州ノーフォークに司令部施設を置いています。NATO唯一の実働作戦主体である作戦連合軍の長、欧州連合軍最高司令官（SACEUR）と並び、NATOの二大機構の一つとして機能しています。

歴史

大西洋連合軍

変革連合軍は、同じくバージニア州ノーフォークに司令部を置き、1952年に編成された大西洋連合軍の後継組織として新編されました。大西洋連合軍の主な任務は、西ヨーロッパに東側陣営が侵攻した場合に、ヨーロッパに展開しているNATO軍への補給や、アメリカ軍の増援部隊を送り込み、北米欧州航路を保護することでした。

冷戦終結後、大西洋連合軍の役割は大きく縮小し、隷下のコマンドも多くが解体されました。しかし、その基本的な構造は2002年のNATOプラハ・サミットまで維持されていました。そして2003年6月19日、大西洋連合軍は解体され、新たに変革連合軍が編成されたのです。

ポスト冷戦と新たなる挑戦

2002年のプラハ・サミットにおいて、NATOはその軍事編制と概念を変革する必要性が認識されました。21世紀における新たな脅威、深化する多国籍連合による軍事行動への対応、そして技術上の進歩と教訓に基づいた各種新型装備の調達について、一元的に運用される機関の編成が決定されました。NATOの変革事業では、組織構造の引き締めと効率化に焦点が当てられ再編成が行われました。このため、構造改革に関する戦略的指揮命令中枢を変革連合軍に集約させ、実働作戦に関する戦略的指揮命令中枢を作戦連合軍（ACO / SHAPE）に集約させています。変革連合軍は2003年6月19日に正式に編成されました。

NATO任務と活動の領域拡大に伴い、冷戦時代の同盟は変化を遂げ、加盟国に対する現代的な脅威に対処するための努力が重ねられました。これらの手法は「急速反復変革的実験ベースライン（Baseline for Rapid Iterative Transformational Experimentation、BRITE）」として開発され、NATOの能力向上に役立てられています。BRITE応用の組み合わせは、海洋環境認識の要請に応じることを目的に設計されました。この要請の成果は、アメリカ合衆国の国際的中間的政府機関が主導し、呼称する「海域察知（Maritime Domain Awareness）」に包括され、テロリズム、人身売買、麻薬、海賊行為、スパイ行為を含む海洋紛争の脅威に対処するために役立てられています。

大西洋連合軍から改編されたことで、変革連合軍の指揮官には非海軍士官が就任するようになりました。2010年9月29日には、ポーランド陸軍のミェチスワフ・ビエニエク陸軍大将が変革連合軍副最高司令官に就任し、組織改編後もSACLANT時代からの繰り越しで続いていた副最高司令官にイギリス海軍大将を充てる慣行が崩れました。また、2009年中頃にはNATO軍事機構に復帰したフランスから最高司令官が迎え入れられ、フランス空軍参謀総長であったステファン・アブリアル空軍大将が就任し、代々アメリカ軍の大将（統合戦力軍司令官が兼任）が就いてきた慣行も崩れました。

任務

北大西洋理事会の優先事項と目的に一致し、変革連合軍には以下の任務が求められています。

将来の統連合作戦の遂行のために概念的な枠組を提供すること。
将来に遂行されるであろう、あらゆる作戦と運用上の能力を定義すること。
新しい運用上の概念を示し、または自然発生させ、実行可能性と価値を評価して、そしてドクトリン開発の成熟をもって、科学研究、実験および技術開発に寄与すること。
概念を加盟各国に普及させ、NATO軍によって実施されることを可能にし、個々にまたは共同して能力獲得させるよう教育訓練を提供すること。

NATOは世界的な実行体となり、変革連合軍は加盟国軍とその軍事能力の再編を導くことを目的としています。その例として、新戦略概念やNATO即応部隊など、加盟国の軍事能力の向上を意図した取り組みが挙げられます。

組織構成

司令部

変革連合軍司令部は、アメリカ合衆国バージニア州ノーフォークに置かれ、司令部自体は変革局、変革支援理事会、各国の連絡代表、平和のためのパートナーシップ要員部隊および予備役兵に対して責任を負います。

変革局

変革局は、変革連合軍最高司令官副参謀長（DCOS）によって率いられ、活動の指導と調整のため、実施課と能力課の2つの課が置かれています。変革連合軍の変革に関わる責務については副参謀長（DCOS）が、変革援助については参謀長（COS）がNATO加盟国の再編過程の成果に重点を置いて任務を遂行し、NATOの将来運用能力の向上を目指します。

下位組織

変革連合軍には世界的な組織が配置されています。同じくノーフォークに司令部を置くアメリカ統合戦力軍と同じ配置だけでなく、ベルギー王国のモンスに所在する欧州連合軍最高司令部にも隷下部門が置かれています。変革連合軍には、以下のような部隊・機関があります。

統合戦センター（JWC）：ノルウェー王国スタヴァンゲル
統合部隊訓練センター（JFTC）：ポーランド共和国ブィドゴシュチュ
統合戦訓分析教授センター（JALLC）：ポルトガル共和国リスボン
NATO海中研究センター（NURC）：イタリア共和国ラ・スペツィア

ドイツ連邦共和国オーベランマーガウに本部を置くNATO学校や各種センターは、変革連合軍の変革事業を支援しています。加盟国資金による取り決めの下で、変革連合軍は科学的実験プログラムのために、毎年NATO協議・指揮統制機関を通じて研究費が投じられています。

NATO卓越センター

NATOは多数の卓越センター（COE）を保有しています。卓越センターは特定の専門分野において、NATO加盟国やパートナー国に対して専門知識や経験を提供する機関です。これらのセンターは、教育訓練の強化、相互運用性の向上、ドクトリン開発の支援、実験を通じた概念の検証など、多岐にわたる活動を通じてNATOの変革を支援しています。

変革連合軍司令部を通じて、NATOによる卓越センターの運用が調整されます。

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