北大西洋条約

北大西洋条約（North Atlantic Treaty）

北大西洋条約は、北大西洋地域における集団防衛を目的とした軍事同盟を構築するための条約であり、1949年4月4日にアメリカ合衆国のワシントンD.C.で署名されました。この条約は、署名地からワシントン条約とも呼ばれます。

条約の概要

条約の根幹は、いずれかの加盟国に対する攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を発動することによって集団防衛体制を確立し、加盟国以外の国からの攻撃を抑止することにあります。この条約に基づいて、軍事同盟「北大西洋条約機構」（NATO）が結成されました。

条約締結の背景

第二次世界大戦終結後、1948年に西ドイツと東ドイツを仮想敵国としたブリュッセル条約が、ベネルクス3国、イギリス、フランス間で締結されました。1949年4月、冷戦下で勢力を増したソビエト連邦の軍事的脅威に対抗するため、アメリカの外交官セオドア・カーター・アキレスを委員長とする委員会によって、これらの5か国にアメリカ合衆国、カナダ、ノルウェー、デンマーク、イタリア、ポルトガル、アイスランドを加えた12か国間で本条約が締結されました。

条約締結前の1948年3月22日から4月1日にかけて、ペンタゴンで秘密会談が行われました。アキレスによると、この条約の条文のもう一人の重要な執筆者はジョン・デューイ・ヒッカーソンでした。

北大西洋条約は、第二次世界大戦末期に過剰拡張を避け、ヨーロッパに多国間主義をもたらすというアメリカの意図によって生まれ、アメリカが西ヨーロッパの列強と結んだ集団防衛体制です。

1955年には西ドイツがNATOに加盟し、東側諸国はこれに脅威を感じ、ワルシャワ条約を締結しワルシャワ条約機構を結成しました。フランスは1966年から2009年まで軍事部門から脱退していました。

条約の目的

この条約は、ソ連による西ヨーロッパへの武力攻撃を想定して締結されましたが、相互自衛権条項が冷戦下において発動されることはありませんでした。初めて発動されたのは2001年10月、アメリカ同時多発テロ事件に対するイーグルアシスト作戦においてでした。条約締結当初は共産主義陣営（東側）に対抗するためのものでしたが、ソビエト連邦の崩壊後に東欧諸国も加盟し、現在では幅広い集団防衛条約となっています。

加盟国

原加盟国

北大西洋条約の原加盟国は以下の12か国です。これらの国の全権代表が、1949年4月4日にワシントンD.C.にて条約に署名しました。

ベルギー
カナダ
デンマーク
フランス
アイスランド
イタリア
ルクセンブルク
オランダ
ノルウェー
ポルトガル
イギリス
アメリカ

ソ連崩壊前に加盟した国

以下の4か国は、条約発効後、ソビエト連邦崩壊前に加盟しました。

ギリシャ
トルコ
西ドイツ
スペイン

ソ連崩壊後に加盟した国

以下の16か国は、ソビエト連邦崩壊後に加盟しました。

ポーランド
ハンガリー
チェコ
エストニア
ラトビア
リトアニア
スロバキア
スロベニア
ブルガリア
ルーマニア
アルバニア
クロアチア
モンテネグロ
北マケドニア
フィンランド
スウェーデン

脱退した国

脱退した国は存在しませんが、以下の3か国は、加盟国から独立した後に本条約に加盟しませんでした。

アルジェリア
マルタ
キプロス

条文

北大西洋条約は、全14条で構成されています。

第1条

締約国は、国際紛争を平和的な手段で解決し、武力行使を控えることを約束しています。

第2条

締約国は、自由な制度を強化し、経済協力を促進することを目指します。この条項は「カナダ条項」とも呼ばれます。

第3条

締約国は、武力攻撃に抵抗するための個別的および集団的な能力を維持・発展させることを誓約します。NATO加盟国はGDPの2%を防衛費に拠出することが目標とされています。

第4条

いずれかの締約国の領土保全、政治的独立、安全が脅かされた場合、締約国は協議を行います。この条文は、緊急事態の出発点とみなされています。

第5条

この条約で最も重要な条項であり、いずれかの加盟国への武力攻撃を全加盟国への攻撃とみなし、集団的自衛権を発動することを規定しています。この条項が実際に発動されたのは、アメリカ同時多発テロ事件の際のみです。

第6条

第5条が適用される地域を規定しています。北アメリカおよびヨーロッパにある加盟国の領域、北回帰線以北の北大西洋地域にある加盟国の管轄下にある島嶼などが対象です。

第7条

この条約による規定は、国連憲章に基づく各国の権利・義務や国連安全保障理事会の責務に影響をおよぼすものではないことを規定しています。

第8条

この条約を批准する際に、既に他国と締結している条約・協定が全て、この条約と矛盾しないことを約束しなければならない旨を規定しています。

第9条

北大西洋理事会を設置することを規定しています。

第10条

NATOに加盟するためのプロセスを規定しています。新規加盟国はヨーロッパの国に限られます。

第11条

条約の最初の批准プロセスについて規定しています。

第12条

条約の改正の手続きを規定しています。

第13条

NATOから脱退するためのプロセスを規定しています。

第14条

英語とフランス語をNATOの公用語とし、アメリカ合衆国政府が条約の写しを他の締約国に公布することを規定しています。

署名後の改正

条約署名後、いくつかの改正が加えられました。

第5条の適用地域は、ギリシャとトルコの加盟によって改正されました。
第6条について、旧フランス領アルジェリアでは本条約は適用されないことが定められました。
第11条について、条約は全ての調印国の批准書が寄託された1949年8月24日に発効しました。

まとめ

北大西洋条約は、冷戦期に西側諸国の安全保障を支えた重要な条約であり、現在も国際的な安全保障において重要な役割を果たしています。条約の目的、加盟国、条文について理解を深めることは、国際情勢を理解する上で不可欠です。

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