夕月 (黛ジュンの曲)

「夕月」（ゆうづき）は、歌手・黛ジュンが1968年に発表した楽曲です。彼女にとって通算5枚目のシングルとして、同年9月10日に発売されました。

この楽曲の制作には、当時の日本の音楽シーンを代表する才能が集結しました。歌詞は、数々のヒット曲を手がけた作詞家、なかにし礼氏が抒情豊かに書き上げました。そして、心に響くメロディーを生み出したのは、作曲家である三木たかし氏です。特筆すべきは、三木たかし氏が黛ジュンの実兄であるという事実であり、家族ならではの絆がこの名曲を生み出す背景にあったと言えるでしょう。

「夕月」は発売されるやいなや、人々の心をとらえ、驚異的な売上を記録しました。単なる一時的なヒットにとどまらず、年をまたいで長く愛されるロングセラーとなりました。最終的な累計売上枚数は66.3万枚に達し、これは前作のヒット曲「天使の誘惑」の記録を上回る、黛ジュンにとってキャリア最大の成功作となりました。特に、発売から約2ヶ月後の1968年11月時点では、公称で100万枚を突破したと発表されており、その勢いの凄まじさがうかがえます。

この年の年末に開催された「第19回NHK紅白歌合戦」では、当初「夕月」が歌唱曲として予定されていました。しかし、同じく黛ジュンの楽曲である「天使の誘惑」が、その年の「第10回日本レコード大賞」を受賞するという快挙を成し遂げたため、急遽紅白での歌唱曲が「天使の誘惑」に変更されることになりました。そのため、「夕月」が紅白の舞台で披露される機会は失われたのです。

楽曲の大ヒットは、音楽界だけに留まりませんでした。その人気を受け、翌1969年には、松竹の手により本作と同名の映画『夕月』が製作・公開されました。この映画では、黛ジュン自身が主演を務め、女優としてもその才能を発揮しました。映画制作にあたっては、黛ジュンの相手役を一般公募で決定するというユニークな試みが行われました。全国から6300名もの応募があり、厳正な選考の結果、若き日の森田健作氏がその大役を射止めました。映画『夕月』は、俳優・森田健作氏にとって、記念すべきスクリーンデビュー作となったのです。

当時の音楽チャートにおける「夕月」の推移も特筆に値します。オリコンチャートには初登場で6位にランクインし、翌週には3位へと順位を上げました。その後、3週目からは7週連続という長期間にわたって2位の座を維持し続けました。しかし、残念ながら頂点である1位を獲得することは叶わず、その座は当時大ヒットしていたピンキーとキラーズの楽曲「恋の季節」によって阻まれました。

このシングルには、「夕月」の他にカップリング曲が収録されています。両楽曲ともに、作詞はなかにし礼氏が担当しています。「夕月」は演奏時間3分30秒で、作曲・編曲は三木たかし氏。そしてカップリングの「愛の奇蹟」は演奏時間2分37秒で、作曲・編曲は鈴木邦彦氏が手がけました。

「夕月」は時を超えて多くのアーティストにカバーされています。代表的なものとしては、1976年に石川さゆり氏がアルバム『あいあい傘』で、2011年に由紀さおり氏とピンク・マルティーニがアルバム『1969』で、そして2012年には徳永英明氏が自身のカバーアルバム『VOCALIST VINTAGE』でそれぞれこの名曲を取り上げています。これらのカバーバージョンからも、「夕月」が世代を超えて歌い継がれる名曲であることがわかります。

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