多様式主義

多様式主義（たようしきしゅぎ）

多様式主義、またはポリスタイリズム（Polystylism）とは、異なる時代や様式、あるいは多様な音楽ジャンルから要素を取り入れ、一つの作品の中で意図的に組み合わせる作曲上の手法や芸術的な潮流を指します。

この概念は、特にポストモダン音楽の一つの顕著な特徴として語られることが多いです。単一の様式原理に固執せず、過去の音楽史上の様式（バロック、古典派、ロマン派など）や、ジャズ、ポピュラー音楽、民族音楽といった非クラシック系の要素、あるいは現代音楽における多様な技法（セリエル音楽、偶然性の音楽など）を同時に、あるいは断続的に使用し、融合させることを試みます。

ロシア出身の作曲家アルフレート・シュニトケは、この多様式主義を理論的に提唱し、自身の作品において実践したことで、その概念が広く知られる契機を作りました。彼は、異なる音楽言語を衝突させたり共存させたりすることで生まれる、複雑で多層的な響きや意味を追求しました。

多様な様式を混在させる試み自体は、シュニトケが提唱する以前から見られました。例えば、1950年代後半から1960年代にかけては、イタリアのブルーノ・マデルナのオペラ『ドン・ペルリンプリン』、ニッコロ・カスティリオーニの作品『鏡を通して』、ドイツのベルント・アロイス・ツィンマーマンの『ユビュ王の晩餐時の音楽』といった作品群に、過去の音楽や他ジャンルの音楽を引用・結合する手法が見られます。これらの初期の事例は、多様式主義の萌芽とも言えるでしょう。

しかし、シュニトケが自身の音楽を「ポリスタイリズム」と明確に位置づけ、その理念を積極的に発信したことが、この手法を現代音楽における主要な潮流の一つとして確立させる大きな要因となりました。彼の活動を通じて、多様式主義は1970年代を中心に国際的な注目を集め、多くの作曲家がこのアプローチを取り入れるようになりました。

多様式主義的な傾向を持つとされる現代の作曲家としては、シアラン・ファレル、レーラ・アウエルバッハ、イツハク・イエディッド、ジョージ・ロックバーグ、ジャンゴ・ベイツ、ジョン・ゾーンなどが挙げられることがあります。ただし、このような呼称による分類に対しては、作曲家自身が異なるスタンスを取ることもあります。例えば、高名な作曲家であるソフィア・グバイドゥーリナは、自身の作品が多様式主義と呼ばれることに対して否定的な見解を示しています。

一時期のような特定の「流行」としての多様式主義という言葉の熱は冷めたものの、過去の音楽素材や様式を自身の創作の中に引用、変容、あるいは組み合わせるという手法自体は、現代の作曲における一般的な選択肢の一つとして定着しています。もはや歴史上の音楽を作品に取り込むことは、特別なタブーではなくなりました。

現代では、過去の音楽の引用がより抽象的であったり、挑発的な形で行われたりすることもあります。デンマークの作曲家シモン・ステン＝アナーセンのピアノ協奏曲では、「8メートルの高さから落下させて破壊したピアノでベートーヴェンの音楽を演奏する」といった、物理的な破壊行為と過去の遺産を結びつけるような極端な試みも見られます。これは、多様式主義が単なる様式の引用に留まらず、音楽に対する概念や演奏形態そのものにまで拡張されている現代的な様相を示していると言えるでしょう。

多様式主義は、広義には過去の要素を寄せ集める「折衷主義（Eclecticism）」や、既存のものを再構成する「ブリコラージュ（Bricolage）」、「コラージュ（Collage）」といった概念とも関連があります。しかし、多様式主義は特に音楽の文脈において、複数の「様式（スタイル）」の併置や混合を意図的に行う点に焦点を当てた概念と言えます。

全体として、多様式主義は、均質性を求める近代的な芸術観からの脱却を図り、異質なもの同士の相互作用や多層性を積極的に受け入れる、ポストモダンの精神を体現する音楽的な手法の一つであると言えるでしょう。

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