多鈕細文鏡

多鈕細文鏡の概要

多鈕細文鏡（たちゅうさいもんきょう）は、中国は遼寧省付近で紀元前6世紀頃に登場した銅鏡です。その後、紀元前2世紀前後に、対馬海峡の島々や九州北部、さらには朝鮮半島の南端にも同時期に広まりました。この鏡は、日本史上初めて伝来した銅鏡とされています。

名称と特徴

この鏡の名称は、「多鈕細線鋸歯文鏡」を略したものであり、特に裏面に配置された2、3個の鈕（ちゅう）がその特徴です。この鈕の部分に紐を通すことができ、多鈕と称されています。さらに、細い線を用いた鋸歯文などの幾何学的な文様が施され、外見的に中国の銅鏡とは異なり、鏡面は凹面の構造となっています。縁の断面は蒲鉾状で、通常の直径は9〜12cm程度ですが、大県遺跡からは直径22cmのものも見つかっています。

日本における流通

多鈕細文鏡は、日本列島では製造されていなかったと考えられていましたが、2015年に福岡県の須玖タカウタ遺跡から鋳型の破片が出土したことで、日本での製造の可能性が示唆されました。この鏡が初めて日本に伝わったのは弥生時代中期前半であり、主に対馬海峡の島々や九州北部がその受容地となりました。その後、長い時間をかけて、本州や中部地方（特に長野県）まで広がりました。

用途と信仰

この鏡の用途については、化粧道具や中国古典に見られる陽燧（ようすい）としての役割が考察されています。陽燧は太陽の光を集めて火を起こす道具として用いられたとされ、多鈕細文鏡もそういった目的で使われた可能性があります。また、一種の呪術具としての側面もあり、鏡自体が太陽信仰に結びつくものとみなされています。

日本における多鈕細文鏡の出土状況は地域によって異なります。九州北部や本州西端では、威信財として銅剣や銅矛、銅戈などと共に埋納されていました。特に福岡県の小郡若山遺跡では、鏡が複数の副葬品とともに複雑な方法で埋められて出土しています。一方、長野県中部では祭祀遺跡からの出土が多く、呪符や護符としての利用が想定されています。

出土地と文化的意義

多鈕細文鏡は主に朝鮮半島を中心に、日本列島や遼寧省、沿海州などに分布しています。日本列島では12例の出土が確認されており、そのうちの8例が九州北部および山口県で見つかっています。中でも福岡市の吉武高木遺跡から出土したものは、特に重要例として国の重要文化財に指定されています。

朝鮮半島での発見

朝鮮半島でも、反川里遺跡や入室里遺跡で副葬品として出土している例が知られています。2015年には大韓民国の虎岩洞遺跡からも出土しており、銅剣や銅矛と共に発見されたことが報告されています。

中国鏡との比較

多鈕細文鏡は形状やサイズが中国の銅鏡と似ていますが、いくつかの異なる点があります。鈕の数は多鈕細文鏡が2、3個に対して、中国鏡は1個のみ、鏡面は凹面なのに対し、中国鏡は平面またはやや凸面です。また、多鈕細文鏡には文様として幾何学文が施されていますが、中国鏡では神仙の図文が使われることが一般的です。

このように、多鈕細文鏡は日本と朝鮮半島の文化的交流を示す重要な文化遺産です。その存在は、弥生時代から古墳時代にかけての日本の社会構造や信仰の理解を深める助けとなっています。

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