銅矛

銅矛（どうほこ）とは

銅矛とは、青銅で作られた矛（ほこ）のことで、武器としてだけでなく祭祀の道具としても使われました。弥生時代の日本列島において、銅剣や銅戈とともに、重要な青銅器の一つとして知られています。

概要

銅矛は、刃の下部が袋状になっており、そこに柄を差し込んで使用します。日本列島には、弥生時代に中国大陸の遼寧地域から朝鮮半島を経由して伝わったと考えられており、その後、日本列島内でも生産されるようになりました。他の青銅器と同様に、時代とともに大型化し、祭器としての性格を強めていきます。

銅矛は、主に北部九州を中心に分布していますが、対馬や四国でも多く見られます。

分類

銅矛は、その形状によって、細形、中細形、中広形、広形の4つの段階に分類されます。これらの分類は、近藤喬一や岩永省三らによって提唱されました。

細形段階: 弥生時代前期末から中期前半に相当し、主に墓への副葬品として見られます。この時期の銅矛は、北部九州の先進地帯でのみ特別な祭器として用いられました。
中細形段階: 弥生時代中期後半に相当し、副葬の他に埋納される例も見られるようになります。
中広形段階: 弥生時代後期前半に相当し、朝鮮半島にも輸出されました。
広形段階: 弥生時代後期後半に相当し、分布範囲が縮小します。

また、銅矛は出土状況によっても分類されます。武末純一は、副葬された「副葬銅矛」、祭祀のために埋納された「埋納銅矛」、廃棄された「廃棄銅矛」、そして伝世されている「伝世銅矛」の4つに分類しました。

歴史

青銅器文化は、エジプトやメソポタミアで始まりました。銅矛は、メソポタミア初期王朝時代に有茎式のものが現れ、エーゲ文明の中期以降に袋穂式が登場しました。日本列島の銅矛は、直接的には朝鮮半島から伝わったものですが、その源流は遼寧青銅器文化の琵琶形青銅武器にたどることができます。

日本列島では、縄文時代後晩期に磨製内反石刀が見られますが、これが中国の青銅刀の影響を受けているかどうかは確実ではありません。確実な青銅器の流入としては、弥生時代前期前半の福岡県今川遺跡の銅鏃・銅鑿が挙げられます。

副葬される銅矛

弥生時代前期末には、北部九州の甕棺の副葬品として細形銅矛が登場します。この頃から、銅矛は武器としての実用性だけでなく、儀器としての意味合いを持つようになったと考えられます。これらの銅矛は、有力者の墓に副葬されました。

対馬では、中広形・広形段階でも副葬が見られますが、九州島では中細形段階までです。

大型化・祭器化

弥生時代後期になると、北部九州では副葬品としての青銅器が衰退し、埋納品が増加します。この祭器化の背景には、武器形青銅器が元々持っていた武威的な特性、鉄製武器の普及、武器形木・石製品を用いた祭祀の影響などが考えられます。また、大型化は、祭器として「見る」ためのものになったため、祭祀の変化、銅矛と銅鐸の相互影響などが原因と考えられています。

山陰地方や瀬戸内地方では、青銅器祭祀を早く放棄しており、これが大型墳丘墓の出現に関係するとも言われています。

銅矛祭祀の終焉

青銅器を用いた集団祭祀の変化には、強化説と形骸化説がありますが、その消滅を考慮すると形骸化説が有力です。形骸化説では、青銅器の集団祭祀が首長霊祭祀に変化したと考えられています。また、祭祀に用いられる祭具が、地的宗儀である銅鐸・武器形青銅器から、天的宗儀である銅鏡へと変化したという説もあります。

製作

青銅器の製作には、専門的な技術が必要とされました。日本列島での青銅器製作は、弥生時代中期前半から始まり、銅矛の分類でいえば細形銅矛の段階からすでに製作が始まっています。

銅矛の製作には、主に銅、スズ、鉛からなる青銅が用いられ、鉛の同位体比の研究も行われています。銅矛の鋳型は、主に福岡平野とその周辺地域から出土しており、初期には福岡平野で製作され、後に生産を強化するために製作地が拡大しました。鋳型には石製のものも使われました。

分布

銅矛は、北部九州を中心に分布し、かつては「銅鐸文化圏」に対する「銅矛文化圏」が想定されていました。銅矛は外洋に面する沿岸地方に集中しており、銅戈とは異なる分布状況を示しています。下條信行は、銅戈が後進地域にも保有を許されたのに対し、銅矛は北部九州先進地帯で「最高の権威あるもの」であったと指摘しています。

銅鐸文化圏と銅矛文化圏

1939年、和辻哲郎は、近畿を中心とする「銅鐸文化圏」と、北部九州を中心とする「銅矛文化圏」の存在を主張しました。しかし、1980年以降の発掘調査によって、この対立図式は崩れました。ただし、「北部九州地方製」青銅器と「近畿地方製」青銅器の分布圏の構図が否定されたわけではありません。

対馬

日本列島出土の広形銅矛の約半分が対馬で出土しています。対馬で広形銅矛が多い理由としては、航海の安全祈願や境界の明示、結界の象徴などの説があります。

四国

四国では、中細形段階までは瀬戸内側に点在していましたが、中広形段階で四国西南部に大量に見られるようになり、広形段階には高知中央部に広がりました。

近世以降の祭祀と銅矛

銅矛が使われなくなった後も、矛が祭祀的な性格を持っていたことが知られています。高知県四万十町の高岡神社の秋季大祭では、弥生時代の銅矛が用いられています。この銅矛は、1657年に出土したと記録されており、祭礼に使用されることへの賛否両論があります。

異形銅鉾

弥生青銅器の偽造品・模造品も存在し、銅矛もその例外ではありません。中四国地方には、「異形」の銅矛が存在し、これらは弥生時代の銅矛をモチーフにしていますが、幕末から明治時代初年にかけて「筑紫鉾」の贋作として製作されたと考えられます。背景には、好古趣味の高まりや古物研究の深化、海外からの需要、神社からの需要などがあったと考えられます。

このように、銅矛は弥生時代の社会や文化を理解する上で、非常に重要な遺物であるといえます。

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