アレクサンドル・ボロディン

アレクサンドル・ボロディン：多才な音楽家、化学者、医師

アレクサンドル・ポルフィーリエヴィチ・ボロディン（1833年11月12日 - 1887年2月27日）は、帝政ロシアの作曲家、化学者、そして医師として、その多才ぶりを発揮した人物です。彼は「ロシア5人組」の一員として、ロシア音楽の発展に大きく貢献しました。本業の化学研究の傍ら、作曲活動を行い、後世に多大な影響を与えました。

生涯

ボロディンは、サンクトペテルブルクで、グルジア貴族の父とロシア人の母の間に生まれました。しかし、彼は非嫡出子であったため、農奴の息子として登録されました。幼少期から音楽の才能を示し、ピアノを学びましたが、正式な音楽教育を受けるのはずっと後のことでした。

ボロディンは、化学を専攻し、サンクトペテルブルク大学医学部を最優秀で卒業後、陸軍病院に勤務しました。その後、ヨーロッパへ長期出張し、ピサ大学やハイデルベルク大学で化学の研究に励みました。彼は、有機化学の研究者として、アルドール反応の発見など、数々の業績を残しました。メンデレーエフとも親交があり、元素理論確立にも貢献しました。サンクトペテルブルク大学では、生化学の助教授、教授として教鞭を執り、教育者としても活躍しました。

音楽活動は、1863年にミリイ・バラキレフと出会ったことが転機となり、本格的に作曲を始めます。1869年には、バラキレフの指揮で交響曲第1番が初演され、作曲家としての才能を開花させました。同年には、交響曲第2番に着手し、1880年にフランツ・リストによってドイツ初演されると、国際的な名声を獲得しました。

ボロディンの代表作として知られるオペラ『イーゴリ公』は、彼の最も重要な作品とみなされています。特に、劇中の「ポロヴェツ人の踊り」と「ポロヴェツ人の行進」は、単独で演奏されることも多く、広く親しまれています。しかし、本業や公務で多忙だったため、生前に完成させることはできませんでした。没後、リムスキー＝コルサコフとグラズノフによって補筆・改訂され、完成に至りました。

1887年、謝肉祭の最中に急死しました。動脈瘤の破裂が原因でした。彼の遺体はサンクトペテルブルクのアレクサンドル・ネフスキー大修道院に埋葬されました。

化学者としてのボロディンは、ハロゲン化アルキルの合成法である「ボロディン反応」にその名を残しています。また、求核付加反応の一つであるアルドール反応の発見者としても知られています。

作風と影響

ボロディンは、作曲家としての才能を発揮しましたが、生計を立てていたのは化学者としての仕事でした。そのため、自らを「日曜作曲家」と称していました。寡作ではありましたが、その作品は今日でも広く演奏されています。代表作としては、2つの交響曲、交響詩『中央アジアの草原にて』、弦楽四重奏曲第2番などが挙げられます。ピアノ曲や歌曲も残しており、ピアノ曲『スケルツォ 変イ長調』は、ラフマニノフによって録音されています。

ボロディンの音楽は、力強い叙事詩的な性格と、豊かな和声が特徴です。彼は、「ロシア5人組」の一員として、ロシア的な要素を音楽に取り入れました。その情熱的な音楽表現と和声法は、ドビュッシーやラヴェルといったフランスの作曲家にも影響を与えました。

また、同世代のロシア人作曲家の中では、ポリフォニーの扱いに長けていました。彼の交響曲や弦楽四重奏曲のスケルツォ楽章からは、メンデルスゾーンからの影響が窺えます。さらに、第1主題と第2主題の間に明確な対照性を与えず、関連する要素を配置していく手法は、シベリウスを先取りしているとも言えます。

ボロディンの功績を称え、1945年には「ボロディン弦楽四重奏団」が結成されました。また、1954年には、彼の作品を改作したミュージカル『キスメット』がトニー賞を受賞しました。

主要作品

オペラ
勇者たち
イーゴリ公（未完）

管弦楽曲
交響曲第1番 変ホ長調
交響曲第2番 ロ短調
交響曲第3番 イ短調（未完）
交響詩『中央アジアの草原にて』

室内楽曲
スペイン風セレナード ニ短調
弦楽四重奏曲第1番 イ長調
弦楽四重奏曲第2番 ニ長調

ピアノ曲
小組曲（全7曲）
変化のない主題によるパラフレーズ

合唱曲
キリルに栄光あれ、メソディウスに栄あれ（未完）

歌曲
慈悲深い神
間違った音符

ボロディンは、音楽と科学の両分野において、その才能を発揮した偉大な人物でした。彼の作品は、今日でも多くの人々に愛され、その影響は計り知れません。

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