夜泣き石 (小夜の中山)

夜泣き石伝説：小夜の中山の怪奇と慈悲

静岡県掛川市、旧東海道の難所であった小夜の中山峠。この峠には、夜になると泣き出すという不思議な石、「夜泣き石」の伝説が残されています。遠州七不思議の一つにも数えられるこの石にまつわる物語は、悲劇、仇討ち、そして人々の温かい心を描き出しています。

伝説の始まり

時は江戸時代、文化2年（1805年）に曲亭馬琴が著した『石言遺響』によれば、昔、お石という身重の女性が小夜の中山に住んでいました。ある日、お石が麓の菊川の里で仕事をして帰る途中、中山の丸石の松の根元で産気づき苦しんでいました。そこへ通りかかった轟業右衛門という男が介抱しますが、お石が金を持っていることを知ると、欲に駆られ彼女を斬り殺し、金を奪って逃走しました。

お石が絶命したその時、傷口から一人の赤ん坊が生まれました。お石の霊は近くにあった丸石に乗り移り、毎夜悲しい泣き声をあげたため、里の人々は恐れを抱き、その石を「夜泣き石」と呼ぶようになりました。

音八の仇討ち

夜泣き石の不思議な力によって、生まれたばかりの赤ん坊は近くの久延寺の和尚に発見され、音八と名付けられ、飴で育てられました。音八は成長すると大和の国で刀研ぎの修行をし、やがて腕利きの刀研師として名を馳せるようになります。

ある日、音八は客が持ってきた刀を見て、「見事な刀だが、刃こぼれしているのが惜しい」と何気なく言いました。すると客は、「実は十数年前、小夜の中山の丸石の近くで妊婦を切り捨てた際に石に当たってしまったのだ」と打ち明けたのです。その言葉を聞いた音八は、この客こそが母の仇であると悟り、ついに仇討ちを果たしました。

弘法大師の加護

事件の後、この話を聞いた弘法大師（空海）が同情し、夜泣き石に仏号を刻んだと伝えられています。この仏号によって、夜泣き石の霊は鎮められ、人々に安寧をもたらしたと言われています。

現在の夜泣き石

現在、「夜泣き石」として伝えられている石は2つ存在します。

国道1号小夜の中山トンネル手前: 東京での見世物興行が失敗し、焼津に置き去りにされていたものを地元の人々が運びました。
久延寺境内: こちらは本来の夜泣き石ではありません。

かつて夜泣き石が置かれていた場所には、「夜泣石跡」の石碑が建てられています。

子育て飴

久延寺の和尚が飴で音八を育てたという伝説から、「子育て飴」という琥珀色の水飴が小夜の中山の名物となっています。久延寺の隣にある茶屋「扇屋」が、峠を通る旅人に提供したのが始まりとされています。また、国道1号線沿いには「名物 子育飴 元祖 小泉屋」があり、多くの人々がこの飴を求めて訪れます。

夜泣き石の伝説は、悲しい出来事から生まれましたが、人々の優しさや信仰心によって、希望の光が灯された物語でもあります。小夜の中山を訪れた際には、ぜひ夜泣き石に手を合わせ、その歴史に思いを馳せてみてください。

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