夜泣き石

日本各地に伝わる夜泣き石の伝説

夜泣き石とは、日本の各地に存在する、石にまつわる伝説のことです。その伝承は大きく二つに分けられ、一つは石から実際に泣き声が聞こえるというもの、もう一つは子どもの夜泣きが収まるというものです。特に有名なのは静岡県の小夜の中山にある夜泣き石ですが、日本各地に様々な夜泣き石が存在し、それぞれ異なる伝承を持っています。

夜泣き石の二つの主な伝承

1. 泣き声が聞こえる夜泣き石

このタイプの夜泣き石は、石自体が泣き声を上げるとされるものと、石に霊が乗り移って泣いているとされるものがあります。

小夜の中山峠の夜泣き石（静岡県掛川市）: この石には、身重のまま殺された女性の霊が乗り移り、我が子を恋しがって夜な夜な泣いているという伝説があります。
その他の泣き声がする夜泣き石:
栃木県日光市：花石町と久次良町に点在する巨石群の中に、泣き声がすると言われる石があります。
千葉県市川市：里見公園にも夜泣き石が伝えられています。
長野県飯田市：水害で亡くなった子どもの霊が石に宿り、夜に泣き声がすると言われています。
京都府京都市：八坂神社にも夜泣き石が存在します。
大阪府交野市：源氏の滝の近くにも夜泣き石があるとされます。
兵庫県三田市：御霊神社には、城の庭から元の神社に戻りたがって夜毎泣いたとされる石があります。

2. 夜泣きが収まる夜泣き石

このタイプの夜泣き石は、その石に触れたり、石の近くにいると、子どもの夜泣きが止まるとされています。

栃木県河内市：法華寺跡地に夜泣きが収まるとされる石があります。
和歌山県有田市：この地域にも夜泣きが収まるとされる石が伝えられています。
宮崎県西臼杵郡高千穂町：槵觸神社周辺にも夜泣きが収まるとされる石があるとされています。

類似の伝承を持つ石

夜泣き石以外にも、石が声を発したり、人に何かを語りかけたりするという伝承は日本各地に存在します。これらの伝承は、古来からの石に対する畏怖の念や、霊的な存在が石に宿ると考える信仰に基づいていると考えられます。

杓子岩（岡山県苫田郡）: 夜に通行人に「味噌をくれ」と言って杓子を突き出すという岩。
こそこそ岩（岡山県御津郡）: 夜に人が通りかかると「こそこそ」と音を立てるという巨岩。
オマンノ岩（香川県琴南町）: 人が近くを通ると、中から老婆が現れて「おまんの母でございます」と名乗るという岩。
物岩（長野県北安曇郡）： 命を狙われている人が通りかかると「殺されるぞ」と警告したとされる岩。

石に対する古代からの信仰と背景

日本人は古くから石や岩を霊的なものとして崇拝してきました。これらの霊的な存在は、妖怪が住み着く場所としても考えられており、そのことが夜泣き石のような伝承を生み出した背景にあると考えられます。

古代の記録に見る石の祟り

奈良時代の記録にも、石が声を発したり、祟りをもたらしたりするという認識があったことがわかります。

続日本紀（770年）: 西大寺の東塔の心礎に使われていた石を壊して捨てたところ、石が唸り声を上げ、祟りをおこしたという記述があります。このことから、古代から石が単なる物体ではなく、霊的な力を持つものとして認識されていたことがわかります。

神話に見る石の霊性

日本の神話においても、天地開闢の初期には「石草木ものいう」という表現が見られます。これは、すべての自然物が意思を持っていたという考えを示しており、石もまた例外ではなかったことを意味しています。

まとめ

夜泣き石は、日本の各地に伝わる石の伝説であり、石への畏怖の念や霊的な存在に対する信仰が背景にあると考えられます。泣き声を発する、夜泣きが収まるなど、様々な伝承が存在し、それぞれの地域で独自の物語が語り継がれています。これらの伝承は、古代から続く日本人の自然観や信仰を理解する上で重要な手がかりとなります。

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