夜見島

夜見島（やみじま）は、ソニー・コンピュータエンタテインメントが手掛けたホラーゲーム『SIREN2』の物語が展開される架空の島です。その創造にあたっては、長崎県の端島（通称：軍艦島）が主なモデルとされており、実際の風景を取り込むためのロケーション撮影は、広島県大久野島や岡山県真鍋島などで行われました。

沿革

夜見島の歴史は、モデルとなった端島の変遷をモチーフにしています。

1890年（明治23年）には、島内に砲台施設が完成しました。近代以降、島に大きな変化が訪れたのは1960年（昭和35年）のこと。この年、資源調査団が派遣され、翌1961年（昭和36年）には四鳴山で本格的な資源採掘が始まりました。これに伴い、島内に鉄塔も建造されます。開発の進展とともに島のインフラ整備も進み、1963年（昭和38年）には社宅団地が建設され、1965年（昭和40年）には娯楽施設として夜見島遊園が開園しました。金鉱開発は島に空前の繁栄をもたらし、1967年（昭和42年）には島内人口が史上最高を記録するに至ります。しかし、この繁栄は長くは続きませんでした。

1970年（昭和45年）になると、金鉱の採掘量が急激に減少し、夜見島金鉱株式会社は事業撤退を検討し始めます。島の玄関口であった夜見島港もこの時期に閉鎖されました。そして1973年（昭和48年）、ついに金鉱山は閉鎖され、島の主要産業が失われます。事業撤退と同時に島民の転出が進み、島は急速に衰退の道を辿りました。

過疎化が進む中、1975年（昭和50年）7月31日には、島民減少に伴い廃校となっていた夜見島小中学校が放火され、校舎が全焼するという事件が発生します。そして、島にとって決定的な出来事が1976年（昭和51年）8月2日に起こります。本土との海底ケーブルが何らかの原因で切断され、島内全域で電源が喪失しました。翌朝、電力会社の職員が島を訪れたところ、全島民が忽然と姿を消していることが確認されました（夜見島全島民失踪事件）。この海底ケーブル切断事件は、2003年に実際に発生した静岡県初島の事故がモデルになったと言われています。この事件を境に、夜見島は無人島となりました。

その後も、夜見島周辺では奇妙な出来事が続きます。1986年（昭和61年）8月2日には、夜見島沖を航行中の貨客船ブライトウィン号が遭難し、船体ごと消失するという事件が発生しました（ブライトウィン号消失事件）。幸い、翌8月3日には乗客1名が島沖で救出されています。さらに時代は下り、2003年（昭和78年）8月6日には、夜見島沖で操業していたマグロ漁船・羽生丸が消息を絶ちます。そして、物語の舞台となる2005年（昭和80年）8月1日、物資輸送訓練中であった陸上自衛隊の輸送ヘリが、原因不明のパイロット死亡により島内に不時着。翌8月2日、夜見島は現実世界から切り離され、異界へと変貌しました。

地理と地区

四開地方の四開県に属する日本近海に浮かぶ離島である夜見島は、1975年時点で郵便番号が444-44とされていました。島の全体的な形は、まるで飛び立つ「鳩」に似ていると言われています。近隣には三逗市が存在しますが、夜見島が三逗市の一部なのか、あるいは独立した自治体なのかは明確にされていません。古くから島を実質的に支配してきた網元の太田家が、非公式ながら島の中心的な存在でした。

島の各地区の名前は、物語のテーマである消失や未解決事件に関連するキーワードから付けられています。

蒼ノ久（あおのく）: 島の西部沿岸に位置する漁港を中心とした集落。鉱山開発以前から存在し、網元の太田家や漁師たちが暮らしていました。三上家もここにあります。名称は「ロアノーク島」に由来します。
瓜生ヶ森（うりゅうがもり）: 島の中央部に広がる山。鉱山開発によって開拓され、採掘所、選鉱作業所、鉱石搬送用のインクラインといった施設がありました。名前は「瓜生島」から取られています。
夜見島港: 島の南西部沿岸にある、鉱山開発期に整備された大規模なコンクリート構造の港湾です。鉱山開発事務所をはじめ、コンクリート製の建物が密集しています。長崎県端島に実在する「ドルフィン桟橋」や「地獄段」に似た場所が再現されています。
崩谷（ほうや）: 島の南西部に位置し、金鉱採掘労働者のための社宅団地が建設された場所です。イ棟、ロ棟、ハ棟の3棟がありますが、ハ棟は高台にありゲーム中には登場しません。鉄筋コンクリート造りの3階建て2DKで、1棟あたり12世帯が居住可能でした。地名は「ホヤ・ヴェルデ」に由来します。ロケ地には神岡鉱山栃洞社宅跡が使用されました。
碑足（ひだる）: 島の北部に広がる地域です。鉱山開発後に作られた夜見島遊園がありましたが、2005年時点では既に閉園し、廃墟と化しています。自衛隊ヘリが墜落したのは、碑足岬の森林付近でした。名称は「ジェラルド・ビダル」から名付けられています。
潮降浜（しおふりはま）: 島の最西端に位置する海岸線です。丘の上には廃墟となった夜見島小中学校があり、海岸沿いには資材置き場と灯台が残されています。地名は端島に実在した「塩降街」に由来します。ロケ地は岡山県真鍋島です。
貝追崎（かいおいざき）: 島の北西部沿岸に位置し、戦時中に使用された砲台跡が2カ所あります。砲座のみが残り、砲身は撤去されています。名称は津山事件の「貝尾集落」から取られています。ロケ地には友ヶ島第3砲台や東京湾要塞第二海堡の砲台跡、広島県大久野島などが含まれます。
四鳴山（しなりやま）: 島のほぼ中央にそびえる山で、古くから島民に神聖視され、立ち入りが禁じられていた場所です。鉱山開発が進められた際に離島線4号基鉄塔が建設されました。異界化後、この鉄塔の上層部付近には時空の歪みにより太田家の家屋が出現しています。山の名前は「シナル（シュメール）」に由来します。
瀬礼洲（せれす）: 島の南部に広がる森林地帯です。1986年に遭難した貨客船ブライトウィン号がこの海岸に座礁しています。地名は「メアリー・セレスト号」に由来します。
三逗市（さんずし）: 夜見島に最も近い四開地方の自治体で、中迂半島に位置します。主人公たちが夜見島へ向かう際に利用した三逗港があります。地名は「三途川」に由来します。
亀石野村: 四開県亀石郡に属する村で、矢倉市子が通っていた県立亀石野中学校があります。作中では名前のみ登場し、三逗市に隣接するか近傍に位置すると考えられます。

島の性質と文化

夜見島という名前は、「忌み島」「黄泉島」「闇島」といった言葉に由来するとされており、古くから外部との関わりを避ける閉鎖的な気風を持つ島でした。これは、「海からやって来るものは穢れである」という島独自の強い排他的な風習が背景にあります。近代化が進み金鉱開発で島外から多くの人や物資が流入して島が繁栄を極める中でも、太田家をはじめとする一部の島民は外部の人間に対して強い不信感を抱き、事業に反対する動きもありました。

島外の近隣住民の間でも、夜見島は「呪われた島」として忌避されており、訪れる者は少ないとされています。島民失踪事件やブライトウィン号遭難事故など、不可解な出来事が多発していることから、一部のゴシップ紙では「日本のバミューダ」と皮肉を込めて呼ばれることもあります。

夜見島には、独特の伝承や風習が根付いています。「滅爻樹（めっこうじゅ）伝承」はその一つで、想像上の巨大な樹木である滅爻樹には、穢れや不浄を清める力があると信じられています。伝説では、滅爻樹本体は既に現世には存在せず、枝のみが残されているとされます。その枝には、島民一人ひとりの名前が刻まれており、島に子供が生まれると、島の中心的存在である太田家の当主が新生児の名前を記した滅爻樹の枝を四鳴山に取りに行く「滅爻樹迎え」という儀式が行われます。この枝は、葬儀の際に死者に捧げられ、死体に憑りつく穢れを滅する力があると信じられています。

また、島には「巫秘抄歌（こうなぎひしょうか）」と呼ばれる童歌が伝わっています。全部で7番から構成されており、舞を奉納する巫女が、7つの門にかけられた7つの封印を解いていくという内容です。この歌は、メソポタミア神話に基づいて作られたと言われています。

特産・名物

夜見島には、いくつかの特産品や名物があります。

夜見アケビ: 夜見島に自生するツル科の植物で、酸味と甘みのある果肉を持ち、「最高の珍味」とも評されます。しかし、その果肉を食すと多くの場合、激しい腹痛や若干の幻覚作用を引き起こすと言われています。
夜見亀: 四海地方の夜見島付近一帯に生息するウミガメの一種です。最大の特徴は、その甲羅にある「怒っている人の顔」のような模様です。地元の漁師たちは、この亀が網にかかると不吉な兆候と捉え、網ごと切り離してでも海に帰していたと伝えられています。モデルは平家蟹と考えられています。
夜見鍋: 夜見島で採れた海の幸と山の幸をふんだんに使用した鍋料理です。調理時に包丁を一切使わず、さらに月明かりの下で食すのが正式な作法とされています。

2005年現在、夜見島は全島民失踪事件以来の無人島であり、かつての繁栄を偲ばせる廃墟が島内の各所に残されています。ゲーム『SIREN2』では、この島が異界化し、恐ろしい出来事の舞台となります。

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