夢の超特急 (小説)

夢の超特急／黒の超特急：新幹線建設の闇を描く社会派サスペンス

小説『夢の超特急』

1963年、梶山季之によって発表された社会派サスペンス小説『夢の超特急』は、当時建設中だった東海道新幹線の用地取得を巡る不正疑惑を題材にしています。著者の前作『黒の試走車』に続く書き下ろし作品であり、新幹線建設という一大国家事業の裏に隠された闇を鋭くえぐり出しています。

あらすじ

物語は、1959年秋、横浜市港北区で不動産業を営む佐渡亮次が、謎の男・中江雄吉から土地買収の依頼を受ける場面から始まります。中江は、フォード系の自動車工場建設のために農地を買い取る計画を進めており、佐渡はその手伝いを引き受けます。買収が完了し、佐渡が高額な手数料を受け取ると、物語は別の事件へと展開していきます。

1962年5月、月刊誌のライター・桔梗敬一は、八丈島で消息を絶った女性・田丸陽子の行方不明事件の調査を依頼されます。調査を進める中で、桔梗は田丸陽子が「新幹線公団」という架空の組織で働いていたことを突き止めます。

一方、警視庁捜査二課の刑事・多山和雄は、「新幹線公団」の汚職事件を担当することになり、その捜査を通して、中江雄吉が土地買収に関与していることを知ります。多山は、中江が土地を安く買い取り、高値で「新幹線公団」に売却していた不正を暴こうとします。

捜査を進める中で、桔梗と多山は、田丸陽子の死と中江雄吉の不正行為が密接に関連していることを突き止めます。そして、二人は、事件の真相解明に奔走します。しかし、中江は海外逃亡を図り、時効成立寸前で事件は闇に葬られることになります。

登場人物

桔梗敬一: 月刊誌のルポライター。事件の真相を追う主人公の一人。
多山和雄: 警視庁捜査二課の刑事。もう一人の主人公。
中江雄吉: 不動産ブローカー。事件の中心人物。
田丸陽子: 「新幹線公団」の元秘書。事件の鍵を握る女性。
その他: 「新幹線公団」の幹部、田丸陽子の母など、事件に関わる様々な人物が登場します。

社会的背景

本作は、高度経済成長期の日本社会における不正や闇を浮き彫りにしています。新幹線建設という一大国家事業を背景に、土地買収における癒着や不正が巧妙に描かれています。また、当時社会問題化していた公害問題や環境問題なども、作品を通して間接的に問われています。

映画『黒の超特急』

1964年、大映によって映画化された『黒の超特急』は、小説『夢の超特急』を原作としていますが、ストーリーは大幅に改編されています。舞台は山陽新幹線建設に変更され、主人公は小説の佐渡と桔梗を合わせたような人物になっています。警察や雑誌社は登場せず、主人公が単独で事件を追う展開となっています。また、田丸陽子は生きたヒロインとして登場し、主人公と共に事件解決に協力します。

スタッフ・キャスト

監督: 増村保造
原作: 梶山季之
主演: 田宮二郎、藤由紀子、加東大介など

映画と小説の違い

小説と映画では、ストーリー、登場人物、結末などが大きく異なっています。小説は社会派サスペンスとして、不正や闇を綿密に描写していますが、映画はエンターテインメント性が高い作品となっています。

まとめ

『夢の超特急』と『黒の超特急』は、どちらも新幹線建設を背景にした社会派サスペンス作品でありながら、それぞれ異なる魅力を持っています。小説は緻密な構成と社会への鋭い洞察で、高度経済成長期の日本の裏側をリアルに描き出しています。一方、映画は、エンターテイメント性の高いストーリー展開とスター俳優の演技で、多くの観客を魅了しました。小説と映画、両方を比較することで、それぞれの作品の魅力をより深く理解することができるでしょう。これらの作品は、日本の高度経済成長期における社会問題を考える上で、貴重な資料となっています。

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