夢浮橋

夢浮橋（ゆめのうきはし）

「夢浮橋」は、『源氏物語』の全五十四帖中の最後の巻であり、第十帖「宇治十帖」を締めくくる重要な部分です。この巻名の由来は独特で、藤原定家による古注釈『源氏物語奥入』には、出典が不明な古歌が関連付けられています。この古歌には、「世の中は夢の渡りの浮橋かうち渡りつつものをこそ想へ」という言葉が含まれており、浮舟の夢のような存在を暗示しているのかもしれません。この巻は「法の師」という別名でも知られており、これは巻の中で薫が詠んだ歌から来ています。

あらすじ

物語は薫が28歳の夏、比叡山の奥・横川を訪れるところから始まります。彼は小野で出家した女性について僧都に質問をし、彼女が浮舟であると確信します。その瞬間、薫の眼には涙がこぼれ、忘れられない思い出がよみがえります。と言うのも、彼にとって浮舟は非常に重要な存在だったからです。僧都は浮舟を出家させたことを後悔し、薫は彼女がいる小野へ案内してほしいと頼みますが、僧都はすぐには難しいと応じます。来月なら案内できると約束し、薫に浮舟への手紙を書いてもらうことを懇願します。

その夜、薫一行が横川を下山する際、彼の松明の火が浮舟がいる庵からも見えました。一方、浮舟は妹尼たちの噂を耳にし、薫との思い出を忘れようと念仏を唱え続けます。次の日、浮舟の異父弟である小君が小野を訪れ、薫の伝えた事情を妹尼たちに知らせました。彼が持参した文書には、薫との復縁を匂わせる内容が含まれていましたが、浮舟は戸惑い、彼との対面を拒みます。結局、彼女は小君の意向に応じることはありませんでした。

薫は小君から「対面できず、お返事ももらえなかった」という報告を受け、その結果、自分が浮舟を隠しているのではないかと疑念を抱きます。

最終巻としての意義

この「夢浮橋」は、『源氏物語』の最終巻であり、そこでの終わり方は非常に特異です。一般には、物語は何らかの完結や区切りを持つものですが、この巻は特にそうなっていないように見えます。「終わることなく終わりを告げる」と表現されるこの巻は、果たして作者がここで意図して完結を目指したのか、それとも何らかの理由で構想が中断されてしまったのか、様々な議論を呼んでいます。この巻の最後は、「とぞ本にはべめる」という一文が残され、独特の形を取っています。

現代の読者にとっては、このような終わりかたが不自然に感じられるかもしれませんが、その当時においては必ずしもそうではなく、鎌倉から室町時代にかけて、続編が書かれたこともあることから、当時の人々がこの結末に不満を抱いた可能性も指摘されています。この「夢浮橋」の終わり方は、明確な結論を与えず、読者の想像力をかきたてる「開けたままの終結」として、解釈されることがあります。

もう一度検索