大いなる旅路

大いなる旅路：激動の時代を駆け抜けた家族の物語

1960年、東映東京撮影所が製作した『大いなる旅路』は、昭和30年代の日本社会を背景に、国鉄機関士とその家族の30年にわたる人生の軌跡を描いた感動作です。岩手県盛岡を主な舞台に、機関士岩見浩造とその家族の喜び、悲しみ、そして困難に満ちた日々が、リアルに、そして情感豊かに描かれています。

三國連太郎演じる機関士と家族の絆

主演を務めたのは、名優・三國連太郎。彼は、本作でブルーリボン賞主演男優賞を受賞しました。彼の熱演によって、機関士としての誇り、家族への愛情、そして時代の波に翻弄されながらも懸命に生きる浩造の姿は、見る者の心に深く刻まれます。

浩造の妻・ゆき子を演じるのは風見章子。二人の間には、長男の忠夫（南廣）、次男の静夫（高倉健）、三男の孝夫（中村嘉葎雄）、長女の咲子（小宮光江）と4人の子供がいます。それぞれの子供たちが成長し、それぞれの道を歩んでいく過程も丁寧に描かれ、家族の絆の強さと、時代が変化していく中で生じる葛藤が繊細に表現されています。

また、浩造を取り巻く人々、職場仲間、家族、そして地域の人々との交流も物語を豊かに彩ります。個性豊かな脇役たちが、浩造の人生に彩りを添え、物語に奥行きを与えています。

実話を基にした鉄道事故シーン

映画には、1944年に山田線で発生した蒸気機関車転覆事故をモチーフにしたシーンが登場します。このシーンは、盛岡鉄道管理局長の立会いのもと、実際に蒸気機関車を脱線転覆させて撮影されたという、当時としては異例の大規模な撮影が行われました。この迫力あるシーンは、映画全体の大きな見どころの一つとなっています。

国鉄と東映の連携と『新幹線大爆破』への影響

本作は、国鉄OBである東映社長・大川博が自ら企画した作品とされています。国鉄との緊密な連携によって実現した実車を使用した事故再現シーンは、東映と国鉄の良好な関係を示す象徴的な出来事でした。しかし、この良好な関係は、後に『新幹線大爆破』の制作において、思わぬ形で試されることになります。

撮影秘話：関川秀雄監督とスタッフの絆

監督の関川秀雄は、撮影現場で酒を飲むことが好きだったそうです。当時、撮影現場での飲酒は問題視されることもありましたが、スタッフとの良好な関係を築き、チームワークを大切にしながら作品を作り上げていました。助監督だった内藤誠氏の証言は、当時の東映東京撮影所の活気ある雰囲気を伝えてくれます。

時代の変遷と家族の物語

『大いなる旅路』は、単なる鉄道映画ではありません。高度経済成長期を迎える日本の社会変遷、そしてそれを背景に生きる一家族の物語です。家族の絆、時代の流れ、そして個人の成長。これらの要素が複雑に絡み合い、見る者に深い感動と余韻を残す作品となっています。戦後の日本の歴史、家族のあり方、そして鉄道の進化に興味のある方にとって、必見の作品と言えるでしょう。

参考文献

椎橋俊之『SL甲組の肖像 1』ネコ・パブリッシング　ISBN 9784777004270

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