大パコミオス

聖パコミオス：キリスト教共同生活修道制の父

聖パコミオス（約292年 - 348年5月9日没）は、キリスト教における共同生活修道制の確立に多大な貢献をした聖人として広く知られています。エジプトのテーベ（現在のルクソール）で異教徒の両親のもとに生まれた彼は、21歳の頃、ローマ軍への徴兵を経験します。この出来事が、後の彼の信仰へと繋がる転機となります。徴兵された彼は、ナイル川を船で移動し、テーベに到着。そこで出会ったキリスト教徒たちの献身的な行為に感銘を受け、キリスト教への改宗を決意します。314年に洗礼を受け、その後、数々の禁欲主義者と交流し、隠者パラエモンに師事して修行を積みます。

彼の修行の一つに、腕を十字架の形に伸ばして祈るという方法がありました。パラエモンのもとでの7年間の修行の後、パコミオスはエジプトの聖アントニオスの近くで隠者生活を始めます。しかし、彼はタベンニシで修道院を建設するという啓示を受け、その地で共同生活の修道院を設立します（318年～323年）。これは、それまでのキリスト教の禁欲主義が主に個人による隠遁生活であったことに対する画期的な試みでした。

パコミオスは、彼の兄ヨハネと共に修道院を運営し、まもなく100名以上の修道士が共同生活を送るようになりました。彼は、修道士たちが共同で生活し、財産を共有する共同体（共住組織）を組織化しました。当初、隠者生活に慣れた修道士の中には、共同生活の煩わしさに戸惑う者もいたため、パコミオス自身は修道院運営のあらゆる雑務を引き受け、修道士たちは精神的な修行に専念できる環境を整えました。この共同体では、パコミオスは「アバ」（アラム語で「父」）と呼ばれ、これが後の「アボット」の語源になったと言われています。

タベンニシの修道院は次第に手狭になり、その後、パバウ（ファウ）にも修道院が設立されました。336年以降、パコミオスは主にパバウで生活を送ります。彼は司祭になることを拒否し、聖アタナシオスからの叙階要請からも逃れたという逸話も残っています。これは、おそらく当時のアレイオス派に対する彼の強い信仰の表れでしょう。

パコミオスは修道院の運営に際し、独自の規律（会則）を定めました。初期の会則は、主の祈りなどの一般的な祈りを中心としていましたが、その後、聖書からの教えを取り入れ、より詳細な規範へと発展していきます。彼の会則は、祈りと労働、共同生活と孤独のバランスを重視したものでした。修道士たちは、日々の生活を典礼を中心としたスケジュールで送り、労働や聖書の朗読の時間もありました。断食や労働の程度は個人の体力に合わせて調整され、食事や衣服も平等に分配されました。また、食事時間や断食の厳しさも個人の判断に委ねられており、柔軟なシステムがとられていました。

パコミオスの会則は、後にヒエロニュムスによってラテン語に翻訳され、レランのホノラトゥス、カイサリアのバシレイオス、そしてヌルシアのベネディクトゥスなど、多くの修道士や修道院設立者に影響を与えました。ベネディクトゥスの制定したベネディクト規則も、パコミオスの会則の影響を強く受けていると言われています。

約40年間、共同生活修道院の院長を務めたパコミオスは、疫病（おそらくペスト）流行の際に、修道士たちを励まし、自分の後継者を指名することなく、348年5月9日に亡くなりました。彼の死後も、彼の指導に従う修道院はエジプトを中心に広がり、その数は8ヶ所に及び、修道士の数は数千人に達したと言われています。パコミオスの共同生活修道制は、エジプトからパレスチナ、シリア、北アフリカ、そして西ヨーロッパへと広がり、キリスト教修道史に大きな足跡を残しました。

聖パコミオスは、ギリシャ語やラテン語を学んだわけではありませんでしたが、奇跡的にこれらの言語を話すことができたという伝承も残っています。また、コンボスキニオン（祈りのためのひも）を最初に用いた人物としても知られています。彼の生涯と功績は、現在でも様々な教会暦で記念され、キリスト教における共同生活修道制の礎を築いた重要な人物として敬われています。彼の名前はコプト語の「鷲もしくは鷹」を意味する言葉に由来し、ギリシャ語ではΠαχώμιοςと表記されます。

参考文献
* パコミオス、ルール、ロンドン、2012年。limovia.net ISBN 978-1-78336-019-2

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