大人の見る繪本 生れてはみたけれど

映画『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』

1932年（昭和7年）6月3日に公開された『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』は、小津安二郎監督による日本のサイレント映画であり、松竹キネマが製作及び配給を行った作品です。この映画は、サラリーマン社会の悲哀をテーマにしながらも、子供の視点から描かれた喜劇です。上映時間は90分で、モノクロ映像が特徴です。

概要

本作は、小津安二郎の初期の代表作の一つとして位置づけられ、特にその映画技法についても注目されています。小津監督がこの映画で採用したのは、従来のフェードイン・アウトではなく、固定したカットを用いた場面転換です。この新たなスタイルは、以降の作品にも大きな影響を与えることとなりました。また、映画は第9回キネマ旬報ベスト・テンで第1位を獲得し、今もなお日本映画のクラシックとして高く評価されています。

あらすじ

物語は、重役の岩崎の近くに引っ越して出世の機会を伺う父親と、その子供たちである良一と啓二を中心に展開されます。しかし、家庭内では父親が厳格であり、特に子供たちに対しては強く接します。新しい学校で地元の悪ガキたちと喧嘩をし、学校をさぼることになった兄弟は、その後担任の家庭訪問によって父親に叱責されることになります。

兄弟は悪ガキ仲間と友達になり、ある日みんなで「うちの父ちゃんが一番偉い」と自慢する話題になります。自身の父親に対する信頼を持っていた兄弟ですが、岩崎家を訪れた際に父が岩崎にお世辞を言う場面を目撃し、失望します。結果、彼らは食事も取らずに抗議しますが、母親の取り成しによって再び日常に戻るのです。

スタッフとキャスト

この映画の監督を務めた小津安二郎は、原作をゼェームス・槇によるものであり、脚色は伏見晁が担当しました。美術監督には河野鷹思、撮影と編集は茂原英雄が手掛けています。主要キャストには以下の人物が含まれています:

• - 父親役：斎藤達雄
• - 母親役：吉川満子
• - 長男良一役：菅原秀雄
• - 次男啓二役：突貫小僧
• - 重役岩崎壮平役：阪本武

文化的意義

本作は1930年代のサラリーマン層の日常生活や庶民の感情を描いた小市民映画の代表作として知られています。撮影は1931年11月に始まり、子役の怪我により一時中断されました。さらに、当時の電車の路線が池上線であったため、撮影の際には電車が通るタイミングを考慮しながらカメラを回したといいます。

映画のフィルムは松竹のオリジナル版と、その後にマツダ映画社によって音声が加えられた版が現存しています。『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』は、小津安二郎がサイレント映画時代に確立した映画作りのスタイルとテーマ性が色濃く反映された作品であり、今もなお映画史における重要な位置を占めています。

評価

この映画は、数々の映画ランキングにおいても高い評価を受けています。

• - 1959年の「日本映画60年を代表する最高作品ベストテン」では第3位。
• - 1979年には「日本映画史上ベスト・テン」で第17位。
• - また1989年には「大アンケートによる日本映画ベスト150」で第31位（サイレント映画としてはトップ）に選出されました。

これらのことから、本作は日本映画の歴史においても特に重要な作品であることが分かります。

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