大口袴

大口袴（おおくちばかま）

概要

大口袴は、日本の伝統的な装束である束帯において、表袴（うえのはかま）の下に着用された肌袴（したばかま）の一種です。その最大の特徴は、文字通り裾が大きく開いている点にあります。元来、この袴は紅色の平絹で仕立てられていましたが、時代が下るにつれてその用途は変化し、後世には公家や武家の少年、あるいは武家の成人男性が、束帯の肌袴としてではなく、独立した装束の一部として白い大口袴を着用するようになりました。このため、本来束帯の下に着用された紅色のものを区別して「赤大口」と称することもあります。

形状の特徴

本来の大口袴は、足首までの長さ（対丈）を持つ切袴（きりばかま）で、生地を四幅（左右それぞれ二幅ずつ）用いて仕立てられます。仕立て方は袷（あわせ）ですが、一般的な衣服のように表地と裏地を別々に縫い合わせるのではなく、表地の余り部分を内側に折り返して裏地とする「引返しの裏打ち」という独特な手法が用いられました。腰紐の構造も現代の袴とは異なり、前後に分かれた二本ではなく、腰周りに長い紐を一本縫い付け、その両端を垂らす「腰一本」という形式です。この紐は右腰から腰を一周させて左腰を経て、再び右腰で結びました。襞（ひだ）については、「つまみ襞」と呼ばれる種類のものが施されています。これは、腰の部分の幅を絞るためのもので、現代の袴に見られるような裾までしっかりと折り目がついた襞とは異なり、浅く折りたたまれただけの構造となっています。

色彩の多様性

大口袴の色彩は、基本的には鮮やかな紅色が用いられました。しかし、着用者の年齢や身分、あるいは装束の種類によって、その色は変化しました。特に、若年者が着用する「濃装束（こきぞく）」においては、紅色の代わりに茜（あかね）と紫根（しこん）という二種類の染料を用いて染められた、より深い色合いの「濃色（こきいろ）」が使用されました。また、高位の貴族では、四十歳を過ぎて老境に入ると見なされる頃から、朽葉色（くちばいろ）、つまり黄赤に近い茶色が用いられるようになりました。さらに、非常に高齢の人物を指す「宿徳（しゅとく）」と呼ばれる人々や、特別な晴れの日に着用される白装束の場合には、白色の大口袴が用いられました。このように、大口袴の色は着用者の属性や状況を示す要素でした。

用途によるその他の種類

大口袴には、上記のような標準的な形状や色彩以外にも、特定の用途や着用者に応じた特殊な形式が存在しました。天皇が着用される大口袴には、時代や装束の種類によっては、女官が用いる緋袴（ひばかま）のように、裾を長く引きずる形式のものも見られました。

また、鎌倉時代以降に公家少年が着用した、丈の短い狩衣である「半尻（はんじり）」装束には、指貫（さしぬき）の代わりとして「前張大口（さいはりのおおくち）」という白い袴が用いられました。この前張大口は、腰紐が現代の袴と同じように前後に二本あり、前身頃には精好織（せいごおり）が、後身頃には大精好織が用いられることで、全体に強い張りを持たせた仕立てとなっていました。

これに対し、室町時代の武家男性が直垂（ひたたれ）装束で用いた白い袴は、「後張大口（うしろばりのおおくち）」と呼ばれます。この後張大口も指貫の代用として用いられましたが、前張大口とは逆に、前身頃に大精好織、後身頃に精好織が使用されている点に特徴がありました。

関連語

束帯（そくたい）
直垂（ひたたれ）

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