大夕張

大夕張の歴史と現在

北海道夕張市の東端、夕張川の最上流部に広がる河岸段丘にかつて栄えた炭鉱の街、「大夕張」。現在の行政上の字名は鹿島にあたります。この地域は、狭義には夕張シューパロダムの建設によりその大部分が水没した旧鹿島地区を指しますが、広義には明治期から炭鉱が操業していた南部地区を含む一帯を指す名称としても用いられています。

炭鉱と共に歩んだ発展と衰退

大夕張の歴史は、1929年（昭和4年）に三菱鉱業が大夕張炭鉱の開発を始めたことから始まります。山間部の僻地ながら、炭鉱開発によって街区が形成され、人々の生活の場となりました。最盛期を迎えた1955年（昭和30年）には、鹿島地区に約2万人、南部地区に約5千人と、合わせて2万5千人近い人々が暮らしていました。当時の街は、多数の炭鉱住宅が立ち並び、幼稚園から高等学校までの教育機関、警察・消防・郵便局といった行政サービス、商店や商業施設、劇場や映画館などの娯楽施設、さらには宗教施設、旅館、銀行、病院、図書館といった都市機能がほぼ完備されていました。

当初、大夕張への交通は三菱石炭鉱業大夕張鉄道線のみで、「陸の孤島」とも称される状況でしたが、1962年（昭和37年）には清水沢地区からの道路が開通。路線バスも運行を開始し、夕張駅や札幌方面へのアクセスが可能となり、交通の便は改善されました。

鹿島地区の大部分は炭鉱関連の集落でしたが、夕張川（現在のシューパロ湖）を挟んだ奥地には、樺太からの引揚者が入植した農村部、鹿島白金（奥鹿島）が存在しました。ここは地域唯一の農村でしたが、炭鉱最盛期には離農が進み、早くから過疎化が始まっていました。一方、南部地区では1966年（昭和41年）に三菱南大夕張炭鉱の開発が始まり、1970年（昭和45年）に出炭が開始されると、鹿島地区から南部へ移り住む人も現れました。

しかし、街の運命は炭鉱と共にありました。1973年（昭和48年）の大夕張炭鉱閉山により、鹿島地区全体の人口は急速に減少します。閉山直前の1972年（昭和47年）に約1万1千人いた住民は、閉山後すぐに半数以上が転出し、1974年（昭和49年）にはわずか4千人ほどにまで減少しました。炭鉱の坑口があった鹿島北栄町や、国道から離れた鹿島春日町、鹿島常盤町といった地域からは人影が消え、廃墟や広大な更地が残されました。

ダムに沈んだ街

その後も過疎化は止まることなく進行しました。大夕張駅前の鹿島栄町や鹿島緑町といった地区には商店が多く集まり、「市街」と呼ばれていましたが、街の面影も次第に失われていきました。そして1991年（平成3年）、多目的ダムである夕張シューパロダムの建設計画が公表され、鹿島地区の全戸に移転が要請されます。住民の同意を経て移転が進み、1998年（平成10年）には残っていた約350人の全住民が移転を完了し、鹿島地区は無人となりました。これに伴い、郵便局や警察駐在所、小中学校なども廃止されました。

2014年（平成26年）に夕張シューパロダムの試験湛水が始まると、かつての街の大部分が水没しました。湖底に沈んだ鹿島地区ですが、付け替えられた国道にかかる橋梁には、かつての町名にちなんだ「千年橋」「緑橋」「栄橋」といった愛称が付けられ、かつて街があった場所を示しています。

現在の大夕張

2020年（令和2年）現在、鹿島地区のほぼ全域は公有地となっています。山岳地帯や一部の高台を除き、大部分はシューパロ湖の湖底にあります。かつての住民の多くは、南部地区や清水沢地区、あるいは市外へと移り住みました。水没を免れた高台には、建物跡や記念碑などがわずかに残されています。例えば、鹿島明石町にあった北海道夕張東高等学校の跡地は水没しないため、鹿島地区にあった閉校記念碑や慰霊碑などが集められ、「鹿島眺望公園」として整備されました。公園の隣には、新しく付け替えられた国道452号が通っています。また、鹿島富士見町にあった夕張市立鹿島小中学校の跡地も水没していませんが、記念碑類は鹿島眺望公園に移され、跡地には気象観測用の施設（アメダス）が設置されています。

広義の大夕張に含まれる南部地区も、三菱南大夕張炭鉱の閉山（1990年）後に急速な過疎化が進み、最盛期約1万人だった人口は大きく減少しました。2017年（平成29年）時点では約400人の住民が暮らしていますが、特定の町名では人口が極めて少ないかゼロとなっています。かつて運行されていた路線バスは廃止され、デマンド交通へと転換されています。

夏の渇水期には、シューパロ湖の水位が下がり、湖底に沈んだ旧市街の約8割が姿を現します。2020年には、湖底に眠る鉄道施設跡や旧道、建物跡などを見学する散策イベントが初めて開催され、多くの関心を集めました。こうしたイベントは全国でも珍しく、地域活性化への新たな可能性として期待されています。

かつて多くの人々が行き交い賑わった炭鉱の街大夕張は、時代の流れと共にその姿を大きく変え、今は静かに湖底に眠っています。しかし、残された痕跡や新しい試みの中に、その歴史と記憶が受け継がれています。

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