大学或問

大学或問（だいがくわくもん）

概要

『大学或問』は、江戸時代前期の儒学者、熊沢蕃山によって著された経世済民論です。貞享4年（1687年）に成立しました。本書は、「或る人が…を問う、…と云う」という問答形式で構成されており、当時の社会に対する強い危機意識と、それを打開するための実践的な提案が述べられています。

本書の内容は、単なる学問的な議論にとどまらず、当時の政治や社会に対する具体的な提言に及んでいます。武士、特に君主の責務についての深い洞察から始まり、治山・治水といった国土管理、農兵制の導入と貿易振興、さらには大名財政を圧迫していた参勤交代の緩和など、多岐にわたる問題に言及しています。

これらの提言は、当時の幕府の政策、特に鎖国制度といった根幹に関わるものであったため、幕府にとって不都合な内容であるとされました。そのため、蕃山は幕政を私議したとして、下総古河に幽閉されることとなりました。本書が公刊されたのは、蕃山の死後、天明8年（1788年）のことでした。しかし、時あたかも寛政の改革の最中であったため、発禁処分となってしまいます。その後、解禁され再刊行されると、本書は多くの人々に読まれることになり、荻生徂徠、頼山陽、横井小楠といった後世の思想家に大きな影響を与えました。幕末の勝海舟も、自身の著書『氷川清話』の中で、蕃山を「儒服を着けた英雄」と評しています。

構成

『大学或問』は、上・下二巻からなり、全部で22条の条文で構成されています。全編を通じて、経世済民は仁政によって実現されるべきであり、そのためには国家が豊かでなければならないという視点が貫かれています。特に、仁政の経済的基盤について深く考察している点が特徴です。また、最終章では、日本の伝統文化の継承者としての天皇と公家の役割について論じられています。

本書は、単なる政治論に留まらず、経済、文化、歴史など、幅広い分野にわたる考察がなされており、近世日本思想史における重要な文献の一つとして位置づけられています。

参考文献

『日本の思想17』筑摩書房、1970年。

関連項目

経世論

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