大小切騒動

大小切騒動とは

大小切騒動（だいしょうぎりそうどう）は、明治5年（1872年）に山梨県で発生した農民一揆です。この騒動は、江戸時代から続く特殊な税制である「大小切税法」の廃止に反対する農民たちが、武力蜂起した事件です。山梨県農民一揆とも呼ばれます。

大小切税法とは

大小切税法は、米納を基本とする江戸時代の年貢制度において、甲斐国（現在の山梨県）で採用されていた特殊な税制です。甲斐国は山がちで米の生産が少なかったため、米納に加え、金納を組み合わせた制度が用いられました。

大切（おおぎり）： 米納の一部を金納に換算したもの。
小切（こぎり）： 米納の代わりに全てを金納で納めるもの。

この税法により、甲斐国では貨幣経済が発達し、養蚕や織物などの商品作物の栽培が盛んになりました。また、大小切税法は実質的な年貢負担の軽減にもつながっていたため、農民たちはこの制度を支持し、廃止に強く抵抗しました。

大小切税法の歴史

大小切税法は、江戸時代初期に起源を持つとされますが、正確な成立時期は不明です。甲斐国が幕府直轄領となった享保年間には、甲州三法の一つとして、大小切税法が確立しました。この税法は、米納を基本とする江戸時代の年貢制度において、甲斐国特有の徴税方法でした。国中三郡では、年貢米の9分の4が米納、残りの9分の5が金納と定められていました。金納分は「小切」と「大切」に分けられ、「小切」は米4石1斗4升を金1両で換算、「大切」は浅草蔵前冬張紙値段で換算されました。このため、甲斐国では貨幣経済が浸透し、商品作物栽培や林業などが発展しました。

明治維新と大小切税法の廃止

明治維新後、新政府は税制の統一を目指し、大小切税法の廃止を決定します。明治5年（1872年）6月、大蔵省は山梨県に対して大小切税法の廃止を命じ、8月8日に県下に布告されました。この決定に対し、国中三郡の農民たちは激しく反発。特に旧田安領では、過去の一揆の成功体験も手伝い、大規模な武装蜂起へと発展しました。

大小切騒動の勃発

大小切税法の廃止に反対する農民たちは、甲府へ向けて進撃を開始。一揆勢は6,000人にも達したと言われています。県庁には一揆勢を鎮圧する兵力がなかったため、県令の土肥実匡（どひ さねまさ）は陸軍省へ出兵を要請し、一揆勢には訴えを認める黒印状を与えて一時的に融和を図りました。しかし、一部の一揆勢は再び市中へ戻り、打ちこわしを行いました。

若尾逸平宅の襲撃

打ちこわしでは、新興商人で山梨県蚕種製造人大総代を務めていた若尾逸平の屋敷も襲撃されました。若尾は当時、不良蚕種を取り締まる立場にあり、騒動の首謀者とされる島田富十郎が無検印の蚕種紙販売で処罰されたことから、農民たちの恨みを買っていたとされています。後に判明した史料からは、若尾が高利で農民に金を貸し付けていたことも、襲撃の背景にあったことが明らかになっています。

騒動の収束と関係者の処罰

陸軍の到着後、県庁は一揆勢を厳しく処罰。首謀者とされる小沢留兵衛と島田富十郎は絞首刑、倉田利作は準流10年の刑に処されました。その他、多くの農民が徒刑や罰金刑を受けました。土肥県令は、騒動の責任を取り免官となりました。

騒動の影響

大小切騒動は、山梨県民に大きな影響を与えました。騒動後、県政は刷新され、殖産興業政策が推進されました。また、この騒動は自由民権運動の高まりにもつながり、県政批判の論壇誌が創刊されました。大小切騒動は、明治初期の社会変革期における農民たちの抵抗を示す重要な出来事として、今に語り継がれています。

まとめ

大小切騒動は、明治維新という激動の時代に、古い税制と新しい税制の対立、そして社会変革に対する人々の抵抗が複雑に絡み合って発生した事件です。この騒動を通して、当時の社会情勢や人々の生活、そして歴史の転換期における矛盾を深く理解することができます。また、この騒動は地方における税制改革の難しさ、農民の生活と意識、そして政府と地方の関係性などを考える上で、重要な教訓を与えてくれます。

もう一度検索