大庭御厨

大庭御厨（おおばみくりや）とは

大庭御厨は、現在の神奈川県茅ヶ崎市と藤沢市にまたがる地域に存在した、伊勢神宮の荘園です。鎌倉時代末期には13の郷を擁し、相模国最大の御厨として知られていました。この御厨は、単なる土地所有にとどまらず、当時の政治や社会構造を映し出す鏡のような存在でした。

成立と寄進

大庭御厨は、平安時代後期の長治元年（1104年）頃、鎌倉景正によって開発が始まりました。景正は、大庭郷を中心に山野を開墾し、その功績をもって永久5年（1117年）に伊勢神宮へ寄進しました。この寄進は、在地領主が自らの地位を守るため、有力な権力者に土地を寄進する「寄進型荘園」の典型的な例です。大庭御厨の境界は、東は俣野川（現在の境川）、西は神郷（寒川）、南は海、北は大牧崎とされていました。

国免荘から官省符荘へ

当初、大庭御厨は国司の承認によって成立した国免荘でした。しかし、国司の交代ごとに特権が取り消される危険性がありました。そのため、伊勢神宮は朝廷の承認を得た官省符荘への昇格を目指し、永治元年（1141年）に実現しました。この背景には、国司による濫妨や、在地領主層の不安定な立場がありました。大庭御厨の歴史は、当時の荘園制度の脆弱さと、そこから鎌倉幕府が成立していく過程を示唆しています。

源義朝による侵攻

天養元年（1144年）には、源義朝が「大庭御厨内の鵠沼郷は公領である」と主張し、御厨に侵攻する事件が発生しました。義朝は相模国衙の代官と組んで略奪行為を働き、伊勢神宮は政府に提訴しましたが、義朝は再び侵攻し、御厨の停廃を宣言するに至りました。この事件は、武士の台頭と、それによる荘園制度の混乱を象徴しています。

大庭氏の興亡

大庭御厨の下司を務めた大庭氏は、鎌倉景正の子孫です。しかし、その家系は複雑で、保元の乱や平治の乱といった動乱の中で、源氏や平氏に与して、勢力を拡大したり、没落したりと、変遷を繰り返しました。大庭景親は平清盛の家人となり勢力を拡大しましたが、源頼朝との戦いで敗北し、処刑されました。その後、大庭御厨は三浦氏の所領となり、宝治合戦を経て、北条得宗家の所領となりました。

大庭御厨のその後

大庭御厨は、その成立から鎌倉時代末期に至るまで、様々な勢力の支配下に置かれました。在地領主、国司、武士、幕府など、多くの人々の思惑が交錯する中で、大庭御厨は相模国最大の御厨へと発展しました。その歴史は、荘園制度や武士の台頭、そして鎌倉幕府の成立といった、日本史の重要な転換期を考える上で、貴重な手がかりを提供してくれます。

大庭御厨は、単なる土地の名前ではなく、歴史の証人として、今もなおその存在を私たちに語りかけています。その歴史を紐解くことは、日本の歴史をより深く理解するための重要な一歩となるでしょう。

もう一度検索