大庭柯公

大庭柯公（おおば かこう）

大庭柯公は、1872年（明治5年）に山口県長府（現在の下関市）で生まれ、波瀾万丈な生涯を送った新聞記者であり、随筆家です。本名は景秋といいます。

生い立ちと初期の活動

大庭柯公は、白石正一郎の弟である大庭傳七の三男として生まれました。父親の傳七は長府藩士でしたが、明治維新後に太政官に出仕し、大庭柯公も養父に従い上京しました。しかし、傳七は1884年に亡くなり、大庭は小学校卒業後、太政官の給仕などをしながら、夜学で英語やロシア語を学びました。この学習を通じて、二葉亭四迷と交流を深めました。

1896年、大庭はウラジオストクに渡り、商館で通訳として働きました。帰国後は、第11師団のロシア語教官や陸軍参謀本部の通訳官を歴任しました。1906年には再びウラジオストクに渡航しましたが、革命派の容疑で拘束され、帰国を余儀なくされました。

新聞記者としての活躍

帰国後の1906年、大庭は大阪毎日新聞の記者となり、ジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせました。1907年頃にはモスクワに渡り、その後はヨーロッパと日本を数回往復しました。また、特派員として、オーストラリア、フィリピン、南アメリカ、中央アジアなど、世界各地を歴訪しました。東京日日新聞を経て東京朝日新聞に移籍し、第一次世界大戦では、東京朝日の記者として東部戦線のロシア軍に同行。ペトログラードで十月革命に遭遇し、その様子を記事として日本に送りました。

社会運動への関与と失踪

1918年、大阪朝日新聞の「白虹事件」の影響で、東京朝日新聞を退社。翌年には、読売新聞社の編集局長に就任しました。大庭は社会運動にも関心を抱き、著作家組合や日本社会主義同盟の創立に関わりました。

1921年、読売新聞の特派員としてシベリア経由でロシアに入国。同年7月、極東共和国の取材でチタからレポートを送ったのを最後に、消息を絶ちました。1922年4月、ソ連の秘密警察ゲーペーウーによって「親ソを装った破壊分子」という容疑で逮捕状が出され、7ヶ月間監禁されました。その後、国外追放が決定されましたが、日本に帰国することはありませんでした。

1924年、大庭がロシアで死去したという情報が日本に伝わり、当時在露していた日本人社会主義者の密告によって、大庭がソ連当局に殺害されたという噂が流れました。この噂を受け、「大庭柯公虐殺真相調査会」も結成されました。

大庭柯公の思想と遺産

大庭柯公は、エスペランティストとしても知られ、1902年頃にウラジオストクでエスペラントを学び、日本エスペラント協会に入会し、普及活動に努めました。

著書には、『人物分布観』『南北四万哩』『露西亜の戦線より』『世界を家として』『露西亜に遊びて』『江戸団扇』などがあります。また、没後には友人らによって全集が刊行されました。全集の序文で、長谷川如是閑は、「大庭柯公の前半生は国家主義的色彩を帯び、後半生は社会主義的色彩を帯びていた」と評しています。1992年には、ロシア保安省によって名誉回復の措置が取られ、1997年には、親族に遺品が返還されました。

大庭柯公の生涯は、激動の時代を背景に、国際的な視野と社会への深い関心を持って活動した人物の一つの例として、後世に語り継がれています。

家族

父：大庭景明（1830年 - 1884年）- 長府の大年寄・大庭家の養子、後に新政府に出仕
伯父：白石正一郎（1812年 - 1880年）- 豪商
長兄：大庭景一（1855年 - 1904年）- 陸軍少佐、日露戦争で戦死
兄：大庭景陽（1859年 - 1915年）- 役人、『櫻花』作詞者
弟：太田光凞（1874年生）- 実業家、京阪電気鉄道社長

主な著書

『人物分布観』 (1910年)
『南北四万哩』 (1911年)
『露西亜の戦線より』 (1915年)
『世界を家として』 (1917年)
『露西亜に遊びて』 (1917年)
『江戸団扇』 (1918年)
『世を拗ねて』 (1919年)
『ペンの踊』 (1921年)
『露国及露人研究』 (1925年)
『柯公随筆』(1938年)

全集

柯公全集刊行会 (1925年)
大空社 (1995年)

関連文献

久米茂『消えた新聞記者 大庭柯公』雪書房、1968年
松枝佳奈『近代文学者たちのロシア　二葉亭四迷・内田魯庵・大庭柯公』ミネルヴァ書房、2021年

外部リンク

大庭柯公 - コトバンク
大庭 柯公 - コトバンク
新宿区：新宿ゆかりの人物データベース｜人物詳細｜大庭 柯公
* 明治の越境者たち - 国立国会図書館「本の万華鏡」第138回常設展示。 大庭の著書『南北四万哩』の紹介があります。

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