大日本国民中学会

大日本国民中学会は、1902年（明治35年）に河野正義によって設立された、明治・大正期における日本最大の通信教育機関です。当時の元文部大臣で東京市長も務めた尾崎行雄が会長となり、広く社会の信頼を得ました。当時の教育制度では、中学校課程への進学が容易ではなかった多くの人々に対し、本会は自宅での学習を通じて中学校相当の教育機会を提供し、教育の普及に大きく貢献しました。

設立当初より機関誌や講義録を発刊し、尋常中学校の課程に準拠したカリキュラムを提供しました。中学全科を約2年半で修了する仕組みで、いつでも入学が可能でした。講義録の質は高く評価され、多くの受講生が確かな学力を身につけ、中には正規の中学校へ編入する者もいました。女子向けの講義録も発行するなど、多様な学習ニーズに応えました。

本会は単なる講義録配布に留まらず、全国各地に支部を設置し、会員の学習支援や交流を促進しました。その支部数は日本国内に加えてアジア各地にも広がり、最盛期には700を超えました。また、地域によっては支部を母体とした学校設立の支援も行いました。主要都市での講演会や講習会、さらには海外留学支援事業など、多角的な活動を展開し、会員の学習意欲を高めました。

教育機会が制約されていた時代に、大日本国民中学会は数十万もの人々に学びの場を提供しました。最盛期の大正末期には、日本およびアジア全体で36万人もの通信学生が在籍していたと伝えられており、その規模は当時の教育界において前例のないものでした。講義録の執筆には、大和田建樹、田山花袋、佐藤紅緑、坪井正五郎、物集高見など、各分野の著名な人物が多数関わっており、教育内容の質の高さを示しています。新潮社の創立者である佐藤義亮が本会の出版事業に携わったことや、現在の駿台予備校の前身が本会の施設を一時利用していたことなども、本会の影響力の大きさを物語るものです。

本会は予備校事業に進出するなど事業を拡大しましたが、関東大震災による被災などの困難もありました。公民教育会として活動を続けたものの、時代の変化の中で、1938年（昭和13年）に倒産し、その歴史を終えました。しかし、大日本国民中学会が近代日本において、通信教育の先駆けとして果たした役割と、教育普及への貢献は非常に大きく、日本の教育史において重要な足跡を残しました。

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