大日本国法華験記

大日本国法華験記

『大日本国法華験記』（だいにほんこくほっけげんき）とは、平安時代中期に成立した仏教説話集です。この作品は、一般的に『法華験記』と呼ばれ、著者は比叡山に所属した僧・鎮源です。作品は上、中、下の三巻から成り、法華経に関する霊験譚を中心とした伝記を記載しています。

成立の背景

『大日本国法華験記』の序文によれば、この著作は長久年間（1040年から1044年）に、鎮源が比叡山の首楞厳院で執筆したとされています。鎮源は新羅の義寂が書いた未存の『法華験記』や、宋の義寂の作品に触発されて、日本独特の版本を編纂したとされています。

内容と構成

この書物は、法華経の持経者たちの伝記を集めたもので、全体で129の伝を含んでいます。内容は菩薩や僧、在家の信者、比丘尼、優婆塞、優婆夷、さらには人間以外の存在（異類）に関するものが含まれています。この構成は、同時代の『日本往生極楽記』に似ていますが、異類に関する章が設けられている点が『大日本国法華験記』の特徴です。

素材となる伝記・説話

本書では、先行する説話や伝記が多く使われており、特に『日本往生極楽記』や『三宝絵』からの影響が大きいです。聖徳太子に関する伝記など、10の伝が『日本往生極楽記』から引用されていることが明らかになっています。その一方で、相応伝や源信伝は新たに自身の見聞や経験に基づいて記述されており、著者の独自性も感じられます。作者は実体験や口伝を重視しており、このことが本書の独特の魅力となっています。

刊行書と評価

本書の日本語版として、井上光貞と大曽根章介による校注版が1995年に岩波書店から、また山下民城による訳も1993年に登場しています。これらの著作は、現代の読者にとっても貴重な資料であり、平安時代の仏教文学の魅力を探るうえで欠かせない存在です。

参考文献と関連資料

本書の研究は多方面にわたり、学術的にも多くの論考が発表されています。特に、法華経に関連する研究者たちによる解釈や論考は、法華験記の理解を深めるために非常に重要です。これらの研究に基づく新たな視点も、法華験記を通じて仏教文学全般の魅力を引き出しています。日本文学の中でも特異な位置を占めるこの書物は、仏教思想やその表現に対する深い理解を促進し続けています。

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