大村加卜

大村加卜（おおむら かぼく）

大村加卜は、生年不詳ながら元禄17年（1705年）に没した、江戸時代前期に活躍した刀工、そして外科医です。越後高田藩（現在の新潟県上越市）や水戸藩（現在の茨城県水戸市）を中心に活動し、その名は刀剣界に深く刻まれています。

生涯

加卜は駿河国（現在の静岡県）出身とされ、兄の家が代々庄屋を務めた上川原に屋敷跡の石碑が残っています。医術は角田休古に学んだとされますが、刀剣研究家の福永酔剣は、加卜が外科医の名人として著書で褒めた古田休甫の誤りではないかと指摘しています。

越後高田藩の家老、小栗美作守正矩の推挙により、藩主・松平光長に医師として召し抱えられ、200石または300石の俸禄を受けました。外科医として多忙な日々を送る傍ら、刀剣製作にも情熱を注ぎ、正保元年（1644年）から刀を鍛え始めました。

当初は義博、義秀と銘を切っていましたが、正保3年（1647年）から「加卜」と銘を切るようになりました。「大村加卜」は号とも考えられますが、分限帳などでは本名のように扱われています。この頃は武士として「森」に大村の「大」を冠した大森姓を使用していたと考えられます。水戸藩に仕官してからは大村加卜（または嘉卜）と名乗っています。

加卜は独自の技法「真之十五枚甲伏作」を開発し、自身の作刀に用いました。

天和元年（1681年）の越後騒動で主家が改易されたため、浪人となりました。伊予松山へ移る光長を江戸郊外まで見送った記録から、元々江戸に居住していたと考えられ、浪人中は鉄砲洲で外科医をしながら著書『剣刀秘宝』を執筆しました。この時期には、朱舜水から一文を贈られたという記録も残っています。また、貞享3年（1686年）には渋川流柔術の目録を拝受しています。

その後、徳川光圀の招きにより水戸藩に仕官しますが、役職は侍医、御伽衆、進物番など諸説あります。元禄11年（1698年）には老衰により視力、聴力が衰え、歩行も困難になったため、長山月楽の屋敷に住むように命じられました。しかし、翌年には退職を願い出ています。福永酔剣は、加卜が水戸へ行くのを嫌がったのではないかと推測しています。

加卜の最期には伝説が残されています。奥州二本松滞在中、用を足そうと裸になったところ、仇に左手を切り落とされ、自身も相手を道連れに死亡したと伝えられています。遺骨は行者によって回収され、茨城県那珂市の武田山不動院に葬られました。

作風

加卜の作刀期間は正保から貞享頃までと長期にわたりますが、本職が外科医であったため、作刀数は多くありません。生涯で作刀した数は100振程度とされ、現存する刀は非常に貴重です。江戸時代から加卜の刀は人気が高く、多くの偽物が作られました。

主な作品

刀 銘 「越後幕下士大村加卜安秀」（重要刀剣、刀剣ワールド財団収蔵）
刃長71.1センチメートル、反り2.5センチメートル。
相州伝を基調とし、「真十五枚甲伏」の添銘が特徴。
「予鍛冶非」（予は鍛冶に非ず）の銘から、刀工ではなく外科医としての自負が伺えます。
太刀（伝 大村加卜）（茨城県指定文化財、個人収蔵）
貞享2年（1685年）銘。
徳川光圀の命により鏡徳寺で作刀。
白鞘には、光圀の命により造られたことや試し切りが6度に及んだことなどが記されています。
刀 銘 「越後幕下士大村加卜作之（金象嵌）『大堰川』真十五枚甲伏造」（個人蔵）
藤枝市郷土博物館・文学館で展示。

著書

『劔刀秘寳』
刀剣に関する秘伝を記した書。

大村加卜は、外科医として人々の命を救いながら、刀工としても優れた作品を世に残しました。彼の刀は、その技術の高さだけでなく、医師としての精神も宿っているのかもしれません。

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