大江季雄

大江 季雄（おおえ すえお）は、大正3年（1914年）8月2日に京都府舞鶴市で生まれた日本の陸上競技選手です。特に棒高跳を専門とし、日本記録保持者としてもその名を刻みました。旧制舞鶴中学校（現在の京都府立西舞鶴高等学校）を経て慶應義塾大学で学びました。

大江の競技者としてのキャリアは輝かしいものでした。昭和10年（1935年）には、ブダペストで開催された第6回国際学生陸上大会において、4メートル10センチを記録して準優勝を果たします。翌昭和11年（1936年）には、棒高跳で4メートル34センチという日本新記録を樹立し、同年開催されたベルリンオリンピックへの出場を果たしました。

ベルリンオリンピックでは、後に日本のスポーツ史に語り継がれる名場面が生まれます。棒高跳競技で、大江は同僚の西田修平と共に4メートル25センチを跳び、2位と3位を分け合うことになりました。当時の規定ではタイ記録の場合、順位を決定するためのジャンプオフを行うのが一般的でしたが、激戦を終えた二人は協議の結果、これを辞退します。帰国後、二人はそれぞれのメダル（西田が銀、大江が銅）を分かち合い、互いのメダルの半分ずつを組み合わせた「銀と銅、二色の友情メダル」を製作しました。西田は大江に、銅メダルでありながらも表彰台の2位に立ってメダルを受け取ったかのように見立てて、このメダルを渡したと言われています。このエピソードは、フェアプレーとスポーツマンシップ、そして国境や競争を超えた人間の絆を示す美しい物語として、後に道徳の副読本にも掲載されるなど、広く人々の知るところとなりました。

オリンピック後も大江の活躍は続きました。昭和12年（1937年）2月の大会では、さらに記録を伸ばし4メートル35センチの日本新記録を樹立。この大会では、ベルリンオリンピックで金メダルを獲得したアメリカのアール・メドウスを破って優勝するという快挙も成し遂げています。昭和13年（1938年）に慶應義塾大学を卒業後、東洋編物に入社しましたが、競技生活も継続し、同年の日本選手権では4メートル20センチを跳んで優勝しています。

しかし、時代の波は激しく変化していました。昭和14年（1939年）、大江は陸軍に召集されます。歩兵第20連隊に配属され、少尉として任官しました。そして昭和16年（1941年）12月24日、太平洋戦争中のフィリピン・ルソン島での戦闘において、志半ばにして戦死しました。27歳という短い生涯でした。没後、陸軍歩兵中尉に特進しています。大江の死後、遺品の中からあの「友情のメダル」が発見されたことが、西田修平との間にあった美しい友情の物語が広く一般に知られる大きな契機となったと言われています。

大江季雄の功績と精神は、今も様々な形で記憶されています。彼の母校である京都府立西舞鶴高等学校には、その栄誉を称える銅像が建てられています。また、京都府舞鶴市立赤レンガ博物館には、大江が実際に使用したとされる棒高跳びの棒が展示されており、当時の雰囲気を感じることができます。昭和17年（1942年）に行われた早慶陸上競技対校戦では、大江の死を悼み、両校の選手たちが大江の遺影を抱えて入場行進を行ったという記録も残っています。大江季雄は、棒高跳の技術向上に貢献した優れた競技者であると同時に、西田修平との「友情のメダル」を通じて、スポーツの持つ真の価値と人間的な絆の尊さを私たちに示し続けた人物として、日本のスポーツ史にその名を留めています。

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