大澤善助

大澤 善助

生涯と事業

日本の実業家として知られる大澤善助（おおさわ ぜんすけ）は、嘉永7年（1854年）2月9日、京都の富小路通丸太町下ルに松尾音松の次男として誕生しました。幼名は松之助。後に、任侠の大澤清八（大垣屋清八とも称され、任侠・会津小鉄こと上坂仙吉の親分でもありました）の養子となり、大澤松之助と名乗ります。養父の名を受け継いで清八と改名した時期もあり、当時の組織で若大将として活動していました。

明治10年（1877年）、23歳頃、人生の転機を迎えます。同志社英学校の初代校長を務めていた新島襄から洗礼を受け、キリスト教徒となりました。この改宗は彼個人にとどまらず、養父の清八や長男の徳太郎も受洗しました。これを機に、従来の家業であった人入れ稼業の組織を上坂仙吉に引き継がせ、新たな道を歩み始めます。

善助は同志社との関わりを深め、特に同志社女学校への支援に力を注ぎました。当時、同女学校では日米の運営陣による方針対立が深まり、資金供給元であったアメリカン・ボードが閉校を示唆する事態に至っていました。学校の存続を強く願った善助は、明治19年（1886年）から財政的な支援を開始します。大正14年（1925年）には、彼の寄付によって同志社女子部の寄宿舎「大沢寮」が建設されています。

実業家としての本格的な活動は、明治23年（1890年）に始まります。時計や自転車の輸入・製造販売を手がける大沢商会を設立しました。これは現在の多角的な事業を展開する企業の礎となりました。

明治25年（1892年）には、京都の電力供給を担う京都電燈株式会社の代表取締役社長に就任します。さらに明治27年（1894年）2月1日には、京都電気鉄道を設立し、取締役に就任しました（社長は高木文平）。そして翌明治28年（1895年）、京都電気鉄道の手によって、日本で初めての市街電車が開業されました。この快挙は、近代日本の都市交通史において画期的な出来事でした。また、明治31年（1898年）5月6日に開業した名古屋電気鉄道の事業にも協力しています。

事業家としてだけでなく、政治の世界にも関わりました。京都府会議員を務め、明治32年（1899年）には同府会の議長に選出されています。

国際的な事業展開も行いました。明治33年（1900年）11月18日、当時大韓帝国の一部であった釜山（現在の韓国・釜山広域市）に渡航し、彼が設立準備を進めていた釜山電燈会社に対し、電気事業の許可が下りました。これを受けて、京都電燈と現地の居留民が共同で出資し、釜山電燈株式会社が設立され、明治35年（1902年）4月1日に開業を果たしました。この釜山の事業は、明治43年（1910年）5月に韓国瓦斯電気株式会社へ売却されました。

また、自身が設立に深く関わった京都電気鉄道も、大正7年（1918年）7月1日には京都市へ売却されました。

大澤善助は昭和9年（1934年）10月10日に80歳でその生涯を終えました。

親族

善助には多くの子供がいました。長男の大澤徳太郎は、父の後を継ぎ大沢商会の二代目社長となりました。徳太郎の妻、幸恵は実業家・鈴木清の長女です。徳太郎の長男である大澤善夫は、J.O.スタヂオを設立し、日本映画のトーキー化を推進した人物として知られています。善夫の妻、田鶴子は八馬財閥初代・八馬兼介の孫にあたります。

次男の清治は、大沢商会の専務を務めましたが、家族の反対を乗り越えて女優の清川虹子と結婚した後に39歳で病没しています。

娘たちも様々な分野で活躍しました。長女のえいは同志社女学校を卒業後、横浜正金銀行の支配人などを歴任した前田忠に嫁ぎました。二女の富貴も同志社女学校卒業後、実業家の武間享一の妻となり、同志社同窓会名誉会長や同志社幼稚園名誉園長を務めるなど、同志社教育に深く関わりました。三女の満寿子は、カルピス製造会長・津下紋太郎の長男で三井物産社員などを経た津下統一郎に嫁ぎました。四女の芳子は、神戸湊西銀行（後の神戸銀行）創業家一族の末正武夫に嫁いでいます。

著作・関連事項

善助自身は、自らの半生を振り返る『回顧七十五年』という著作を昭和4年（1929年）に刊行しています。

彼の業績や人生は、大沢商会、京都電燈、京都電気鉄道、名古屋電気鉄道、釜山電燈といった設立・関与した企業や事業と深く結びついています。また、孫の大澤善夫が設立したJ.O.スタヂオや、彼が深く関わった同志社（同志社女学校、同志社幼稚園）関連、さらに京都YMCAなど、幅広い分野でその影響が見られます。2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」では、彼の人物像が描かれたこともあります（演：草野とおる）。

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