大牧村六郎右衛門

大牧村 六郎右衛門（おおまきむら ろくろくえもん）

江戸時代後期に加賀藩領の砺波郡五箇山（現在の富山県南砺市）において、赤尾谷組の代官職である十村を務めた人物。生没年は不明ですが、岡部を名乗った家系と伝えられています。

五箇山における加賀藩の統治は、当初は瑞泉寺下梨道場の五ヶ山市助が代官として一円を支配する形から始まりました。しかし、慶安4年（1651年）には五箇山地域が東西に二分され、東半（小谷・利賀谷、後に利賀谷組と呼ばれる）と西半（赤尾谷・上梨谷・下梨谷、後に赤尾谷組と呼ばれる）にそれぞれ十村が置かれる体制に移行しました。

この二組制は続きましたが、宝暦9年（1759年）4月に両組を兼務していた下梨村の宅左衛門が獄死したことを機に、十村役の選任方法に変化が見られました。後任として平野部に住む三清村の仁九郎と大西村の加伝次が選ばれたのです。これ以降、五箇山の十村役は、その地域外の平野部出身者から任命されるのが慣例となりました。これは、加賀藩が五箇山という特殊な地域に対する支配体制をより強化しようとする意図があったためと考えられています。

このような状況下で、例外的な存在として五箇山内部から十村役に選ばれたのが大牧村六郎右衛門です。彼は利賀谷組に住んでいましたが、担当したのは赤尾谷組の十村でした。五箇山内部から十村が出たのは、六郎右衛門が唯一の例となります。六郎右衛門は、寛永8年（1631年）に多額の献金を行った大牧村与一郎や、同年大牧湯の番頭を務めていた市右衛門の子孫であると伝えられています。

六郎右衛門が十村役に就任したのは安永3年（1774年）9月18日でした。翌安永4年（1775年）4月には、藩主が帰国する際に「越後姫川の御川越人足才許（ごかわごえにんそくさいきょ）」、つまり姫川での川越人足を取り仕切る役目を命じられ、この任務を滞りなく果たしたという記録が残されています。

しかし、六郎右衛門が十村を務めた期間は比較的短かったようです。安永8年（1779年）8月以降は、再び平野部出身者である大西村の加伝次と金屋本江村の金右衛門が十村役を担うことになりました。これ以降、五箇山地域から十村役が選ばれることは二度となかったため、六郎右衛門の存在は五箇山十村史における特異点と言えます。

十村役を退いた後も、大牧村六郎右衛門の家は五箇山社会において影響力を持ち続けました。彼らは塩硝上者屋（えんしょうじょうものや、塩硝の製造・販売に関わる役職）を経営しており、塩硝関係の史料にその名がしばしば登場します。また、代々利賀谷筋の塩（硝石）吟味人も務めていたとみられ、天保期には塩硝勢子方役（塩硝製造の作業を管理する役職）を勤めた当主がいたという記録も残っています。

明治維新後、六郎右衛門の家系は正式に岡部姓を名乗るようになったと伝えられています。このように、大牧村六郎右衛門は短期間ではありましたが、外部からの登用が主流となった時代に五箇山内部から選ばれた唯一の十村として、またその家系が地域産業に関わり続けた点において、五箇山の近世史において重要な人物の一人と言えるでしょう。

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