大町文夫

大町文夫（おおまち ふみお、本名：瀬戸口文夫）は、1908年2月25日に熊本県熊本市で生を受け、1982年4月14日に74年の生涯を閉じた日本の俳優です。

長崎高等商業学校を卒業後、雑誌・新聞記者や専売局職員といった異色の経歴を歩んだ大町文夫は、1934年（昭和9年）、演劇の世界へと足を踏み入れます。村山知義ら進歩的な演劇人が結成した新協劇団に参加し、新劇俳優としてのキャリアをスタートさせました。戦後間もない1947年（昭和22年）には、滝沢修や宇野重吉らが中心となって創設された民衆芸術劇場（後に劇団民藝となる）に加わります。以来、劇団民藝の主要な一員として、数々の重要な舞台作品に出演しました。『五稜郭血書』（1952年）、イプセンの『民衆の敵』（1953年）、アーサー・ミラーの『セールスマンの死』（1954年初演、その後も再演）といった代表作において、物語に深みを与える存在として劇団の活動を支えました。特に『セールスマンの死』では、主人公ウィリーの兄ベン役など、複数の役を演じ、その演技の幅広さを示しています。

舞台での精力的な活動と並行して、大町は早くから映像作品にも出演していました。戦中の1939年にはすでに映画『空想部落』に出演しており、戦後も多くの作品に顔を見せています。独立プロダクションの作品や、日活映画に特に多く出演し、様々な役柄でその存在感を発揮しました。刑事、工場の責任者、市井の人々、時には権威ある立場など、特定の型にとらわれない多彩な役柄を演じ分け、作品世界にリアリティをもたらす名脇役として知られました。『煉瓦女工』（1946年）、『暴力の街』（1950年）、『真空地帯』（1952年）、『泥だらけの青春』（1954年）、そして日活の『男の紋章』シリーズなど、その出演作は多岐にわたります。

また、1957年（昭和32年）頃からは、黎明期にあったテレビドラマにも積極的に出演するようになります。NHKの『ここに人あり』や日本テレビの『夫婦百景』といった人気シリーズをはじめ、単発ドラマや大河ドラマにも数多く登場しました。NHK大河ドラマでは、『花の生涯』（1963年）、『赤穂浪士』（1964年）、『太閤記』（1965年）、『源義経』（1966年）と、立て続けに主要な役柄を演じ、テレビ視聴者にも広くその顔を知られるようになりました。

大町文夫は、派手さはないものの、確かな演技力と存在感で、舞台、映画、テレビと活躍の場を広げた俳優でした。市井の人々から権威ある人物まで、人間味あふれる表現で多くの役柄を演じ、それぞれの作品に欠かせない存在として貢献しました。彼の残した足跡は、日本の演劇史、映画史、そしてテレビドラマ史において重要な一頁を占めています。

主な出演作品（一部）

映画

• - 空想部落（1939年）
• - 多甚古村（1940年）
• - 煉瓦女工（1946年）
• - 銀嶺の果て（1947年）
• - 暴力の街（1950年）
• - 真空地帯（1952年）
• - 泥だらけの青春（1954年）
• - 石合戦（1955年）
• - 流離の岸（1956年）
• - 夜は俺のものだ（1958年）
• - 人間の壁（1959年）
• - 男の紋章シリーズ（1964年、1965年）
• - 霧の旗（1965年）

テレビドラマ

• - ここに人あり（1957年-1961年）
• - 夫婦百景（1958年-1962年）
• - 松本清張シリーズ・黒の組曲「駅路」（1962年）
• - 文芸劇場「雁」（1962年）
• - 判決（1963年-1965年）
• - 大河ドラマ（花の生涯、赤穂浪士、太閤記、源義経など）（1963年-1966年）

舞台

• - 民衆の敵（1953年）
• - セールスマンの死（1954年、1957年、1966年）
• - 楡の樹蔭の欲望（1957年）
• - 火山灰地（1961年）
• - オットーと呼ばれる日本人（1962年）
• - るつぼ（1962年）

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