銀嶺の果て

映画『銀嶺の果て』について

『銀嶺の果て』は、1947年8月5日に公開された日本の山岳アクション映画です。東宝が製作・配給し、谷口千吉が監督を務めました。モノクロ、スタンダードサイズで、上映時間は88分。

この作品は、黒澤明が執筆したオリジナル脚本『山小屋の三悪人』を基にしており、谷口千吉にとっては監督デビュー作となりました。冬の日本アルプスでのロケーション撮影を敢行した本格的な山岳映画であり、三船敏郎の映画デビュー作であると同時に、伊福部昭が初めて映画音楽を担当した作品としても特筆されます。

第21回キネマ旬報ベスト・テンでは第7位にランクインし、東宝からDVDが発売されています。

あらすじ

物語は、「銀行破り三人組 長野縣下に遁走!」という新聞記事から始まります。野尻、江島、高杉の3人組は銀行強盗を働き、冬の北アルプスに逃げ込みます。捜索隊が迫る中、高杉は雪崩に巻き込まれて消息を絶ちますが、野尻と江島は運良くスキー小屋にたどり着きます。そこには、老人とその孫娘である春坊、そして登山家の本田がいました。

小屋で酒を振る舞われ、一泊することになった二人ですが、雪のため一週間は動けないと言われます。野尻は次第に彼らの温かい人情に触れて心を動かされていきますが、江島は世間との接触を極度に恐れ、ラジオの電池を抜いたり、伝書鳩を殺してしまいます。

翌日、スキーなどを楽しむ中で、野尻は春坊から歌を聞かされ、亡くした子供を思い出します。本田が朝焼けの山を楽しむ中、江島は本田を脅迫して山を案内させます。夜になり、凍てついた雪渓を進む一行ですが、頂上で江島が足を滑らせ、野尻もろとも転落します。本田は全身の力で二人を支えますが、ザイルが腕に絡みつき、身動きが取れなくなります。

なんとか岩を登り本田の元までたどり着いた二人でしたが、腕を骨折し動けない本田を置いて行こうとする江島に対し、野尻は反対します。二人は争いになりますが、雪庇が崩れて江島は命を落とします。野尻は必死の思いで本田を助けようと下山を始めますが、なぜザイルを切らなかったのかと野尻が問うと、本田は「ザイルが切れなかっただけで、山の掟ですよ」と答えます。

ようやく山小屋まで本田を運び終えると、そこには警官隊が待ち構えていました。野尻は、七得ナイフをプレゼントした春坊から蜂蜜を受け取り、心が洗われます。本田に謝ると「また山で会いましょう」と挨拶されます。野尻はレコードの音を聞きながら、下山する列車の中で「もういっぺん山が見てえ」とつぶやき、手錠のかかった手で窓を拭うのでした。

スタッフ

原作、脚本: 黒澤明
監督: 谷口千吉
監督補佐: 宇佐美仁
助監督: 岡本喜八
撮影: 瀬川順一
音楽: 伊福部昭
美術: 川島泰三
録音: 亀山正二
音響効果: 三縄一郎
照明: 平田光治
編集: 長沢嘉樹
特殊技術: 東宝技術部
現像: キヌタ・ラボラトリー

キャスト

江島: 三船敏郎
野尻: 志村喬
高杉: 小杉義男
本田: 河野秋武
春坊: 若山セツ子
スキー小屋の爺: 高堂国典
署長: 深見泰三
刑事A: 坂内永三郎
刑事B: 大町文夫
刑事C: 望月伸光
新聞記者: 浅田健三
鹿の湯の主人: 石島房太郎
鹿の湯の女中A: 登山晴子
鹿の湯の女中B: 岡村千鶴子
学生A: 石田鉱
学生B: 笠井利夫

音楽

音楽を担当した伊福部昭は、一見明るい場面に悲しげな音楽を合わせるという手法を用いました。特に、主人公が女性とスキーを楽しむシーンでは、イングリッシュホルン一本で悲しい旋律を奏で、主人公の宿命を描きました。この音楽の方向性に関して、監督の谷口千吉はワルトトイフェルの『スケーターズ・ワルツ』のような明るい音楽を想定していたため、意見が対立。黒澤明の仲裁により、最終的には伊福部の音楽が採用されました。

この作品の音楽は、その後の伊福部の映画音楽家としてのキャリアを大きく飛躍させるきっかけとなりました。また、本作のメインタイトル曲は、『空の大怪獣ラドン』で「ラドン追撃せよ」の曲としてアレンジされ、一部は『ゴジラ』（1954年版）の楽曲の原型ともなっています。

その他

岡本喜八と三船敏郎は下積み時代に同じ下宿で生活しており、本作では岡本が助監督、三船が俳優として参加しました。二人は親交を深め、岡本が独立プロを立ち上げた際には、三船がスタジオの使用を便宜を図ったと言います。
江島は飛行服を着用しており、その荒々しい言動から、軍隊帰りの人物であることが示唆されています。
黒澤明と谷口千吉による初期の脚本は「白と黒」というタイトルでしたが、撮影台本では「山小屋の三悪人」というタイトルでした。しかし、宣伝部の意向により、公開時には「銀嶺の果て」というタイトルに変更されました。
ロケーション撮影は黒菱平、栂池高原、唐松岳などで行われました。当時はロープウェイやスノーモービルがない時代であったため、スタッフとキャストは人力で機材を運び上げました。元々カメラマン志望だった三船は、積極的に重いバッテリーを運んでいたそうです。
筒井康隆の小説『銀齢の果て』は、本作とは全く関係ありません。

脚注

参考文献: 『テレビマガジン特別編集 誕生40周年記念 ゴジラ大全集』講談社、1994年
外部リンク: 銀嶺の果て - allcinema

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