大白森

大白森（おおしろもり）

大白森は、秋田県の北東部に位置する山で、秋田を流れる小和田瀬川と岩手を流れる葛根田川の源流となっています。標高はそれほど高くありませんが、山頂部は平坦な地形になっており、広大な高層湿原が広がっているのが特徴です。

また、大白森の南約1500mには、同様に山頂が平坦で高層湿原を持つ小白森（こしらもり）があります。この記事では、大白森と小白森について解説します。

概要

大白森への一般的な登山ルートは、鶴の湯温泉の駐車場脇にある鳥居から始まります。登山口から林の中を2分ほど進むと林道に出るので、そこを左に10mほど進んだところが、本格的な登山道の入り口です。最初は杉の植林地を通り、その後は唐松林の中にある金取沢を登っていきます。金取沢には金取清水と呼ばれる水場があり、登山者の喉を潤してくれます（ただし、枯れている場合もあります）。

金取清水を過ぎると、急な坂道のブナ林となります。そこを登りきると、裏岩手縦走路との分岐点である鶴の湯分岐に到着します。鶴の湯分岐を直進すると、木道が現れ、小規模な高層湿原が広がる小白森山頂にたどり着きます。小白森山頂は、アオモリトドマツやミネカエデなどの低木に囲まれています。さらに、ブナとアオモリトドマツの混合林の中の登山道を進むと、視界が開け、大白森山の木道に出ます。大白森山の山頂にある高層湿原には、ワタスゲ、ニッコウキスゲ、キンコウカなどの花が咲き乱れ、秋田駒ヶ岳、岩手山、乳頭山、八幡平などの山々の眺望を楽しむことができます。

大白森は南八幡平縦走コースの一部となっており、周辺は山菜が豊富に採れるため、季節によっては多くの登山者が山菜採りに訪れます。この南八幡平縦走コースは、藩政時代から存在が記録されており、1961年に国体登山コースとして整備されました。その際、大白森には収容人数20名の大白森山荘、曲崎山には岩谷山荘が建設されました。大白森という山名の由来は定かではありませんが、藩政時代には「大城森」（おおしろもり）と呼ばれていました。同様に、小白森山は「小城森」（こしろもり）と呼ばれていました。

大白森の周辺

大白森山頂から南八幡平縦走コースをさらに進むと、標高1025m地点に大白森避難小屋があります。木造2階建てで、1階にはストーブが設置されたコンクリート床、2階には5人程度が就寝できるスペースがあります。避難小屋の近くには十字路状になった場所があり、そこから下る細い道を進むと、水場があります。水量は少ないですが、沢を少し登ると湧き水が出ている場所があります。

大白森の東北東5.4kmには、同名の大白森（標高1,269m、雫石町）がありますが、こちらは登山道がありません。この山も山頂部が平坦な高層湿原となっており、葛根田大白森、南部大白森とも呼ばれています。

大白森避難小屋の東には、姫潟と呼ばれる沼があります。幅100m、長さ300mほどの美しい瑠璃色の水面が特徴で、高山の秘境であるため、かつては魚が生息していませんでした。しかし、伊藤金兵衛という人物が、15km離れた場所からフナの稚魚を背負ってきて放流し、それを15年間続けた結果、現在ではフナが生息しています。姫潟へは、藪をかき分けて進む必要があります。

江戸時代の記録

江戸時代の記録には、小白森（小城森）について、「山の上に泉水がある。3間から5間ばかりもあろうか。深さは4尺ぐらいの清水の底が見える。この水は土用でも乾かないが、御用以外で水を汲めば天候が荒れる。御用だとしても、物を洗ったり、何かを捨てればたちまち風雨になる」と記されています。また、「台の上に田の形があって、それが田代と名付けた理由だ」とも書かれています。

大白森の山男（サンカ）

千葉治平の先祖である堀川小太郎常義は、秋田藩の山廻り番として国境を巡回し、南部藩禁制の名馬を移入して秋田藩の馬産を復活させました。堀川は、不思議な山男（サンカ）に関する記録を残しています。

1864年、田沢村の百姓である長九郎が、小白森へタケノコ採りに行って行方不明になりました。長九郎は鶴の湯の湯守である六蔵と共にタケノコ採りに出かけたのですが、藪の中で「ホーイ」と大声を出していたため、六蔵は放置していました。昼近くになり、六蔵が約束の場所に行くと、長九郎の姿はありません。心配になった六蔵は長九郎を探しましたが、見つからず、一人で鶴の湯に戻りました。翌日、六蔵は村に急を知らせ、マタギを中心とした捜索隊が組織されましたが、長九郎は見つかりませんでした。

翌1865年、堀川は秋田藩の密命を受け、国境警備の状況を偵察しました。その結果、喜左衛門というマタギが、大白森と南部大白森に囲まれた沢で白骨死体を発見しました。着物はボロボロになっており、喜左衛門は骸骨を村に持ち帰りました。

さらに翌年の早春、喜左衛門はカモシカ狩りで笊森へ出かけました。鞍部近くにたどり着くと、山頂に異形の人影を見つけました。喜左衛門が大声で脅すと、その人影は一瞬顔を向けましたが、それは死んだはずの長九郎でした。長九郎は逃げるように雪渓を滑り落ち、姿を消しました。

喜左衛門の話は村人を震撼させ、長九郎の亡霊だとか、南部の山役人の手先になったという噂が流れました。長九郎の妻は山神に祈りを捧げ、六蔵は食料を持って長九郎を探しに行きました。すると、喜左衛門が黒湯で人の足跡を発見したと知らせてきました。黒湯には湯守がいなかったため、喜左衛門と六蔵は黒湯に向かいました。8日目の夕暮れ、六蔵が湯壺を覗くと、岩陰に獣のようにうずくまっている人影がいました。それは、髭面で人相が変わっていましたが、長九郎でした。

長九郎は、2年前に六蔵とはぐれた後、小白森、大白森を越えて南部領に迷い込み、そこで山男と若い女に助けられたことを語りました。彼らは言葉が通じませんでしたが、献身的に長九郎を介抱し、長九郎も次第に元気を取り戻しました。若い女と恋に落ち、彼女は長九郎の子を身ごもりました。ある秋の日、山男の父親が山役人に撃たれ、長九郎は黒湯の湯の花を集めて山男の父親を介抱しました。南の地へ移動する季節が近づき、長九郎は湯の花を集めるために黒湯に通っているところを、喜左衛門や六蔵に目撃されたのでした。

長九郎は「長九郎は死んだものと伝えてくれ！俺は南に行く。嶺の上に雪が落ちたら、長九郎のことを思い出してくれ」と言い残し、湯小屋から姿を消しました。

参考文献

* 東北百名山地図帳,山と渓谷社

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