大葛鉱山

大葛鉱山（大葛金山）とは

大葛鉱山は、秋田県大館市にかつて存在した鉱山で、主に金を産出したことから大葛金山とも呼ばれていました。

概要

鉱山は、現在の秋田県道22号比内大葛鹿角線沿いに位置し、大葛温泉から3km進んだ場所に鉱山事務所跡がありました。現在、その精錬所跡地には標柱が建てられており、一帯がかつての鉱山地帯であったことを示しています。主鉱床は、精錬所跡から東に2km離れた巻山峠の北部に位置していました。古くから峠を越えて鹿角や南部藩との交流も盛んで、一本栗峠や巻山峠が利用されていました。

大葛鉱山は秋田藩最大の鉱山であり、南部領の槇山（真金山）金山と国境を隔てて隣接していました。

歴史

伝説によれば、大葛鉱山の発見は708年に遡るとされています。東大寺の仏像鋳造や金閣寺の造営にも献金したという記録が残っています。

大葛金山の代々の支配人を務めた荒谷家に伝わる文書によると、鉱山は1521年頃に鍵掛沢の中の立見沢で発見されたとされています。天文年間（1532年-1555年）には、浅利越後が右市鳥沢で採掘を行い、大いに繁盛したため「越後県見」と称されました。また、天正年間（1573年-1592年）には秋田城之介が採掘を行ったと伝えられています。

1602年に佐竹氏が秋田へ転封されると、藩の富強策の一環として金山の経営が推進され、大葛鉱山は久保田藩最大の金山となりました。転封初期には、南部藩との間で境界争いが発生し、坑木や薪炭材の切り出し用の山林の場所を巡って対立が激化しました。この争いは1609年（慶長14年）に表面化し、1677年（延宝5年）4月に幕府の裁定が下り、名実ともに秋田領となるまで両藩の争いが絶えませんでした。その後、神成氏、嘉藤氏、荒谷氏、高田氏、白崎氏、村井氏などの民間人と久保田藩によって経営が行われました。ある時期には藩の直山（直営鉱山）となり、北秋田一帯の鉱山を支配したり、阿仁鉱山の支山として扱われたこともありました。

1615年には家屋が154戸あり、米の消費量から推測すると、千人程度が生活していたと考えられます。慶長の後期に入り次第に山況は悪化していましたが、1617年（元和3年）に新しい間歩（坑道）ができて鉱脈に当たると、元和年間にはほぼ年10枚（1730g）以上の金を産出していました。しかし、寛永期には再び山況が悪化しました。この頃から、坑内の排水技術の未熟さから坑道が水没し、水抜きに多額の費用がかかるようになり、どの鉱山も産出に多額の経費がかかるようになりました。

金の生産量には盛衰があり、1825年〜1838年には年間の灰吹金が19kg〜26kg生産され、最も生産量が高かったのは1837年で、44kgの金を生産しました。この頃には、佐渡金山と並び称されるほどの金山として知られていました。

1869年には、秋田戦争で南部藩軍の侵攻路となり、大葛鉱山も諸施設に火をつけられる被害を受けました。その被害を記録した写真は、現在大葛金山ふるさと館に展示されています。

1870年、秋田藩の経営となり、1873年からは工部省の直轄となり、アメリカ人技師カーライルら外国人技師3人が派遣され、大葛鉱山精錬所が建設されました。1877年に大葛金山と改称し、小坂鉱山分局の所轄となり、同年に南部利恭に貸与されました。1879年には、尾去沢鉱山と同様に鉱業会社経営者の岡田平馬に払い下げられました。

1887年からは三菱へ経営が移り、生産が盛んになりました。1909年に一時休山となりましたが、1929年には金だけでなく、銀や銅を含む鉱石を産出しました。1933年にはメタンガス噴出事故が発生し、鉱夫4名が死亡しました。1941年時点では家屋は70戸と記録されています。

第二次世界大戦以後は尾去沢鉱山の支山として27名で銅を産出しました。1972年、尾去沢鉱山から独立して大手開発(株)として創業しましたが、1975年12月に閉山となりました。

1998年には、大葛温泉比内ベニヤマ荘の近くに大葛金山ふるさと館が開館し、金山に関する資料が一般公開されています。

荒谷家

荒谷家初代の荒谷八郎右衛門は九戸政実の乱から逃れ、金山沢の鍵掛沢に辿り着いたとされ、1675年に金山集落に転居しました。荒谷家の口伝によると、荒谷家先祖の3人兄弟が再会を約束し、その一人が一族を率いて南部領を捨て、鹿角郡曙村から真金山峠を越えて金山に入ったとされています。1761年に9代目の忠右衛門富暠の時に、帯刀御免と金山の経営を任されました。金13kg125ｇ、銅18tを差し出すことを命じられ、これまでの給金が10両から13両に増額されました。1764年（明和元年）には、忠右衛門は金方世話役、横目役を命じられています。1772年、江戸時代の鉱山技師でもあった平賀源内と吉田利兵衛が荒谷忠右衛門の案内で大葛鉱山を視察しました。1779年（安永8年）金山は荒谷の受山となり、最初の3年は請負山として損益を一任され、1728年（天明2年）から直山格の受山として運上金10両を藩に上納するように命じられています。以後その役は世襲的なものになりました。

1803年、江戸時代の紀行家である菅江真澄は5月4日に、大葛金山を支配する荒谷富訓のもとに宿を借りました。翌5日、真澄は荒谷の案内で鉱山を見学しました。

荒谷家11代当主の荒谷忠一郎富謙は鉱山経営者でもありましたが、優れた数学者でもありました。今の一関地方の和算家千葉胤道に師事し、24歳の時に一関市川崎町薄衣の波分神社に他の3人と共に算額を奉納しています。1873年には桂太郎と伊藤博文も荒谷家に滞在し、鉱山を見学しました。

荒谷家による大葛鉱山の経営は、1869年の15代桂吉まで続きました。この年、荒谷桂吉は「支配人御免」を藩に提出し、翌年それが認められました。荒谷桂吉は後に県会議員や同議長、衆議院議員（3期）を務めました。

大葛鉱山精錬所

大葛鉱山精錬所は、かつての鉱山の象徴でした。現在、大葛鉱山精錬所跡には史跡標柱が立てられており、いまだに鉱石の残滓が堆積しています。また、500m西には金山墓地があります。墓石数は320基、面積は2,000平方メートルで、一般墓地には見られない鉱山社会特有の友子の墓石が数多くあるのが特徴です。「友子制度」は鉱夫の間に組織された自衛的相互扶助制度で、作業技術の指導や生活上の相互扶助を行っていました。友子の墓石には、「親分」「子分」「舎弟」などと書かれています。

江戸時代の鉱山病

菅江真澄は「すすきのいでゆ」において、鉱山労働者は男は若くして死ぬ者が多く、女は一生のうち7〜8人の夫をもつ者が多いと涙ながらに語ったと記述しています。

1826年には、大葛山の患者を藩医が付き添い、江戸医学館で診察を受けさせました。その容体書には当時の大葛鉱山では覆面をあつらえ、竹筒に水を入れ時々口をすすがせ、坑内に入っている時間を決め、ゆるやかに掘るようにしむけたと記述されています。

参考文献

鷲谷豊『大館地方の歴史散歩』無明舎出版、1990年
斎藤實則『あきた鉱山盛衰史』秋田魁新報社、2005年

外部リンク

* 大葛金山国立公文書アジア歴史センター

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