大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定

大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定（TTIP）の全貌

2007年に発足した大西洋横断経済会議を母体として、米国とEUの間で交渉が進められていた大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定（TTIP）。北大西洋版TPPとも称され、両市場の規制や関税の削減・撤廃を目指していました。しかし、安全基準の引き下げ、公的サービスの質低下、国民の権利侵害といった懸念から、2015年には250万人以上の反対署名が集まるなど、強い反発を招きました。

交渉は2016年末に合意に至らず終結。その後、新たな協定として米EU貿易協定の交渉が開始されました。TTIPは、その過程で多くの議論を巻き起こし、国民的関心を集めた協定として記憶されています。しばしば「ティーティップ」と発音されることも特徴的です。

TTIPの目的と懸念

TTIPは、関税引き下げだけでなく、貿易を阻害する様々な規制の緩和・撤廃を目指していました。具体的には、化粧品や遺伝子組換え食品、成長ホルモンに関する規制などが対象となり、EUの厳しい基準が米国の基準に引き下げられる可能性も懸念されました。

特に問題視されたのが、ISDS（投資家国家間紛争解決）条項です。この条項により、企業は国家政策によって経済的損失を被った場合、その国家を訴えることができます。タバコ広告規制や最低賃金引き上げ、原子力発電禁止なども訴訟対象となりうるため、国家主権の侵害や公共政策の阻害につながるという批判が巻き起こりました。

さらに、政府調達へのアクセス拡大により、地方の非営利団体への支援が制限されたり、公的セクター雇用の民間委託が進み、労働条件悪化につながる可能性も指摘されています。

交渉過程における秘密主義も大きな問題でした。環境保護団体グリーンピースは、予防原則の弱体化や二酸化炭素排出削減への言及不足を批判しました。

TTIPとEU、そして英国

2016年7月、EU委員会は交渉文書を公開。同年、欧州議会では賛成多数でTTIP交渉継続が決定されましたが、ISDS条項の修正要求は無視されたままです。

英国では、TTIP批准阻止を訴える声もありましたが、リスボン条約に基づき、EUが独占的に交渉・批准する権限を持つため、個々の加盟国の拒否権行使は困難でした。

TTIPは、英国のEU離脱問題とも密接に関連しており、国民投票における議論の争点の一つとなりました。労働党は、TTIPが労働者や消費者の権利、環境基準を脅かすと批判。保守党内にも反対意見がありました。

TTIPと国民保健サービス（NHS）

専門家からは、TTIP締結により英国の国民保健サービス（NHS）が部分的に民営化される可能性が指摘されました。市場アクセス条項が、国家による公的サービスの独占を禁じているためです。政府はこれを否定しましたが、詳細な情報を公開せず、国民の懸念を払拭できませんでした。

オバマ大統領の訪英と国民投票

2016年4月、バラク・オバマ大統領は訪英し、EU残留を呼びかけました。EU離脱による英米間の自由貿易協定締結の遅延を警告したことも、TTIPへの反対運動を加速させました。

国民投票の結果、離脱派が勝利。この結果はTTIPに大きな打撃を与えました。しかし、EU離脱後も、英国政府がTTIPの一部を批准する可能性は残されており、新自由主義政策への反対運動は継続しています。

まとめ

TTIPは、貿易自由化のメリットと、安全基準の低下、公的サービスへの影響、国家主権の侵害といったリスクのバランスが問われた協定でした。交渉過程における秘密主義や、ISDS条項など、様々な懸念が、世界的に大きな議論を巻き起こしました。TTIPは合意に至らず終結しましたが、この協定を取り巻く議論は、国際貿易協定のあり方や、グローバル化における民主主義のあり方について、重要な示唆を与えてくれています。

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