大谷米太郎

大谷米太郎：貧農から「鉄鋼王」へ、そしてホテルニューオータニの創業者

大谷米太郎（1881-1968）は、20世紀日本の経済史に名を刻んだ稀有な人物です。富山県出身の貧しい農家の長男として生まれた彼は、31歳まで過酷な小作農として生活を強いられました。しかし、わずかな資金を手に上京し、日雇い労働者の生活を送る中で、持ち前の力強さを買われ、大相撲力士となります。四股名「鷲尾嶽」として活躍するも、指の障害により幕内への昇進を断念、引退後は酒造業へと転身しました。

酒造業での成功を足がかりに、米太郎は1919年、鉄鋼圧延用のロールを作る東京ロール製作所を設立。弟の協力を得て事業を拡大し、1923年の関東大震災からの復興需要を捉え、大谷製鋼所を設立、建築用鉄鋼製品製造で大きな利益を上げます。その後も特殊鋼製造に進出し、1940年には大谷重工業を設立、満州への進出も果たすなど、事業を拡大し、時代の寵児「鉄鋼王」と呼ばれるまでになりました。

太平洋戦争による損害を克服したのち、朝鮮特需を背景に、米太郎は星製薬の買収、TOCビルの計画など、企業買収や再建にも進出、勢力を拡大します。しかし、晩年はホテルニューオータニ建設による経営負担が重くのしかかり、大谷重工業は経営不振に陥ってしまいます。1964年の東京オリンピック開催に合わせ開業したホテルニューオータニは、米太郎の新たな挑戦でしたが、翌年には社長を退任。大谷重工業も八幡製鐵による経営支援を受け、実権を失うことになります。

巨万の富を築いた米太郎でしたが、銀行取引を嫌い現金決済を徹底するなど、独特の経営スタイルで知られました。その一方で、地元への貢献にも熱心で、小矢部市役所の建設、富山県立大谷技術短期大学（現・富山県立大学）の設立に私財を寄付するなど、社会貢献にも力を注ぎました。蔵前国技館の建設、浅草寺宝蔵門の再建にも貢献するなど、社会に多大な影響を与えました。浮世絵のコレクターとしても知られ、そのコレクションはかつてニューオータニ美術館で公開されていました。

1968年、脳腫瘍のため86歳で生涯を閉じました。没後、大谷重工業は大阪製鋼と合併、合同製鐵として新たな歴史を刻むこととなります。大谷米太郎の生涯は、貧困から出発し、並外れた努力と経営手腕で成功を収め、社会貢献にも尽力した、まさに波瀾万丈の物語と言えます。彼の功績は、今日でもホテルニューオータニや富山県立大学などを通して、人々の生活に息づいています。 彼の三男、米一はホテルニューオータニの三代目社長、四男の大谷勇は教育・社会貢献に尽力し、それぞれの分野で活躍しました。弟の竹次郎も、兄を支え、昭和電極社長などを務め、美術品収集でも有名でした。彼の一族は、日本の経済史、文化史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。

もう一度検索