大造じいさんとガン

大造じいさんとガン

『大造じいさんとガン』は、椋鳩十によって書かれた児童文学作品であり、老猟師である大造じいさんと、賢いガンの群れのリーダー「残雪」との間で繰り広げられる知恵比べを描いた物語です。この物語は、1941年に雑誌『少年倶楽部』に掲載された後、書籍化される際に加筆修正され、現在では小学校の国語の教科書にも掲載されています。

物語のあらすじ

物語は、猪狩りに参加した「私」が、猟師から栗野岳に住む大造じいさんという老猟師を紹介される場面から始まります。大造じいさんを訪ねた「私」は、彼が過去に体験した、ガンの群れの頭領である「残雪」との知恵比べの物語に引き込まれていきます。

1の場面

大造じいさんは、栗野岳の麓の沼地でガンを狩猟していました。しかし、白い羽根を持つ「残雪」が群れを率いるようになってから、全く獲物を仕留めることができなくなっていました。そこで大造じいさんは、タニシを餌にした罠を仕掛けます。初日には一羽のガンを捕獲できたものの、翌日にはすべてのタニシが食べられており、罠は無残な姿を晒していました。大造じいさんは、残雪が群れのガンにタニシの食べ方を教えたのだと悟り、その知恵に感嘆します。

2の場面

翌年の狩猟に備え、大造じいさんは夏の間、大量のタニシを集めて餌場近くに小屋を建てました。小屋から、餌場に降り立ったガンを狙い撃ちにする計画でしたが、小屋を警戒したのか、ガンたちは餌場に近づきません。大造じいさんは、残雪に対する憎悪を募らせます。

3の場面

3年目の対決に向けて、大造じいさんは初年度に捕獲したガンを囮として調教し、残雪の群れを誘導しようとしました。囮のガンは大造じいさんの肩に乗り、口笛の指示に従うまでに訓練されました。しかし、決行の朝、ハヤブサの襲撃を察知した残雪の群れは一斉に飛び立ちました。飛び遅れた囮のガンがハヤブサに襲われそうになった時、残雪がハヤブサに立ち向かいました。絶好の機会にもかかわらず、大造じいさんは銃口を下ろしました。地上で格闘する二羽を追って飛び出した大造じいさんは、逃げ出したハヤブサとは対照的に、自分を睨みつける残雪の姿に、強い威厳を感じました。

4の場面

大造じいさんは、傷を負った残雪を手当てし、回復した残雪を放鳥しました。飛び立つ残雪を「ガンの英雄」と称え、これまでの自分のやり方を反省し、正々堂々とした勝負を誓いました。

作品の版について

『大造じいさんとガン』には、出版社によって様々な版が存在します。初出の『少年倶楽部』掲載時には、紙面不足のため「まえがき」がカットされていました。その後、書籍に収録される際に「まえがき」が追加され、文体も「です・ます調」に修正されました。

教科書に掲載される際も、出版社によって「まえがき」の有無や文体が異なります。また、初稿のタイトルは「大造爺さんと雁」でしたが、教育漢字外であるため、教科書では「大造じいさんとがん」または「大造じいさんとガン」に修正されています。

物語に対する考察

生物学的な視点

物語の舞台は、霧島山系の栗野岳とされており、現・湧水町の三日月池がモデルと考えられています。しかし、物語に登場するガンは、実際にはタニシをほとんど食べないため、生物学的な観点からは不自然な描写があります。また、囮のガンが猟師の肩にとまるという描写も、ガン科の鳥の生態からは考えにくいとされています。ハヤブサが、マガンを襲うという点も、実際の生態からは、捕食対象としては大きすぎるという指摘があります。

戦争との関連性

作者の椋鳩十は、戦時中に発表したこの作品が、少年読者を戦争に駆り立てる意図があると批判されました。しかし、椋は、この作品を通じて「生きることの美しさ」を伝えたかったと語っています。

まとめ

『大造じいさんとガン』は、老猟師とガンの知恵比べを通じて、人間の傲慢さや自然への畏敬の念を描いた作品です。物語は、様々な視点から読み解くことができ、読者に深い感動と教訓を与えます。

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