大野屋總本店

大野屋總本店

東京都中央区新富の地で、足袋や肌着、そして様々な和装関連の品々を作り、販売しているのが有限会社大野屋總本店（おおのや そうほんてん）です。200年を超える長い歴史を持つこの店は、日本の伝統芸能に携わる人々を中心に、多くの顧客から厚い信頼を得ている老舗の足袋メーカーとして知られています。

歴史

その歩みは、安永年間（1772〜1780年）に遡ります。初代の福島美代吉が、当時の江戸、三田の地に装束仕立屋として店を構えたのが始まりです。創業当初は、主に腹掛けや股引といった仕事着や庶民の衣類を仕立てることを生業としていました。

時代は下り、嘉永二年（1849年）に現在の新富町へと移転を果たします。この頃から、足袋が主力商品へと変わっていきました。移転を機に、足袋の製造・販売に力を入れるようになったと考えられます。江戸から明治、大正、昭和、そして平成、令和へと時代が移り変わる中でも、足袋づくりの技と精神は脈々と受け継がれていきました。

商品と顧客層

大野屋總本店の中心となる商品は、やはり足袋です。一口に足袋と言っても、その種類は多岐にわたります。例えば、「細」「柳」「梅」「牡丹」といった名称で区別される足袋は、それぞれ足の巾（幅）や甲の高さに微妙な違いを持たせてあります。これは、履く人の足の形や好み、あるいは用途によって最適な足袋を選べるように工夫されているためです。既製の標準的な足袋に加え、顧客一人ひとりの足に合わせて丁寧に採寸を行い、熟練の職人が一針一針手掛ける特別誂えの足袋も提供しており、これが多くのプロフェッショナルに支持される理由の一つとなっています。

主な顧客層は、歌舞伎役者をはじめ、舞踊家、能役者、茶道家、演歌歌手など、日本の伝統文化や舞台芸術に携わる人々です。彼らは足袋を単なる履物としてではなく、自身の芸を支える大切な道具として捉えています。そのため、フィット感や耐久性、見た目の美しさなど、足袋に求める要求は非常に高いものです。大野屋總本店は、そうした厳しい要求に応え続けることで、プロからの厚い信頼を築いてきました。過去には市川團十郎のような名だたる歌舞伎役者も顧客に名を連ねていたといいます。

足袋の他にも、和装用の肌着や、ガーゼ素材の寝巻、パジャマ、湯上り着、ハンカチなど、和の暮らしに馴染む様々な商品を扱っています。

「新富形」足袋

大野屋總本店の足袋の中で特筆すべきものに、「新富形」と呼ばれる足袋があります。これは、5代目当主であった福島福太郎（1904-1969年）によって考案・開発されたものです。新富形足袋の最大の特徴は、その名の通り、足袋の底部分の幅を意図的に細く絞ってある点です。これにより、足元がよりすらりと、すっきりと細く見える効果があります。舞台に立つ役者や舞踊家にとって、足元の見え方は非常に重要です。この新富形足袋は、その美しいシルエットが好評を博し、多くの歌舞伎役者や舞踊家、さらにはかつての新富界隈で活躍した芸者さんたちにも大変愛用されるようになりました。職人の伝統的な技術と、顧客の要望や美意識に応えようとする探求心が生んだ、大野屋總本店を代表する一品と言えるでしょう。

創業から200年以上にわたり、日本の伝統文化を足元から支え続けている大野屋總本店。熟練の技を受け継ぎながらも、時代や顧客の声に耳を傾け、最高品質の足袋を作り続けています。東京都中央区新富にある店舗では、これらの製品を手に取ることができます。

店舗情報

営業時間: 9:00〜17:30
定休日: 土曜日、日曜日、祝日
* 最寄り駅: 東京メトロ有楽町線 新富町駅 2番出口

東都のれん会にも名を連ねる老舗として、これからも日本の履物文化の一翼を担っていくことでしょう。

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