大阪日本民藝館

大阪日本民藝館の概要

大阪府吹田市の万博記念公園内に位置する大阪日本民藝館は、民芸品を中心に収蔵・展示する美術館です。この施設は、単なる美術館にとどまらず、1970年に開催された日本万国博覧会（大阪万博）のパビリオン「日本民芸館」を前身とする、歴史的な意義を持つ場所です。

万博パビリオンとしての誕生

大阪万博の開催が決定される中で、民芸運動を推進した大原総一郎をはじめとする関係者の呼びかけに応じ、関西の企業17社が協力して「万博日本民芸館出展協議会」を設立しました。これに日本民藝協会が加わり、「暮しの美」「民藝の美」というテーマのもと、民芸の魅力を広く紹介するためのパビリオン建設が計画されました。1967年9月に設立が決定され、翌1968年12月には着工。万博開幕を目前にした1970年3月6日には、建設を担当した大林組によって竣工・開館式が執り行われました。当初、館長には計画推進の中心人物であった大原総一郎が就任する予定でしたが、万博開催前の1968年7月に逝去されたため、弘世現氏が後任となり、陶芸家の濱田庄司氏が名誉館長を務めました。

万博会期中、パビリオンは4つの展示室で構成されました。第1展示室では全国各地から集められた古い民芸品を、第2・3展示室では伝統的な技法を受け継ぎながら制作された新作民芸品を紹介。そして第4展示室では、民芸の工芸における本質に沿った個人作家の新作が展示されました。陳列ケース、椅子、電話台、灰皿といった展示室内の備品に至るまで、細部にわたり民芸調のものが用いられ、空間全体で「暮しの美」が表現されました。

万博開催時のエピソードとして、特に話題を呼んだのが、第四展示室の壁一面に展示された棟方志功による最大作の板画「大世界の柵『乾』ー神々より人類へー」（2.4×13.5メートル）でした。また、展示ケースは松本民藝家具が手掛け、受付や案内係の女性たちが着用した制服のデザインは、染織家の柳悦孝氏が担当するなど、多くの民芸に関わる人々がこのパビリオンに関わりました。

万博後の継承と現在の活動

万博終了後、パビリオンの建物は大阪府に寄贈され、その後万博記念協会に無償で譲渡されました。これを引き継ぎ、1971年3月26日には大阪府教育委員会から工芸館としての設立許可を得て、翌1972年3月15日、大阪万博開催2周年を記念する形で、財団法人大阪日本民藝館として装い新たに開館しました。初代館長には名誉館長を務めた濱田庄司氏が就任し、二代目館長はデザイナーの柳宗理氏（2011年3月末まで）が務めました。現在は特定の館長職は置かず、日本民藝館との連携のもと、理事・評議員による運営体制をとっています。

大阪日本民藝館は、万博記念公園内の文化ゾーンに位置しており、平和のバラ園を挟んで日本庭園や国立民族学博物館に隣接しています。収蔵品は陶磁器、木漆工品、染織品など多岐にわたり、その数は約6千点にのぼります。年間を通じて、毎年春（3月から7月）と秋（9月から12月）には、特定のテーマに基づいた特別展が企画・開催されており、民芸の多様な側面に光を当てています。また、常設展では、濱田庄司や河井寛次郎といった、日本の民芸運動を牽引した代表的な陶芸家たちの作品を見ることができます。

施設の特筆すべき点

大阪日本民藝館は、大阪万博で建てられた多くのパビリオンの中で、当時のテーマや理念を保持しつつ現在も運営されている、数少ない、あるいは唯一の施設とも言われています。その建築も特徴的で、これまでの民藝館が古民家を模した和風建築で、展示品を自然な形で配置するスタイルが多かったのに対し、当館は和風の要素を残しつつも、「ホワイトキューブ」と呼ばれる現代的な展示空間を取り入れた、民藝館としては初めての試みとされる建築様式を採用しています。建設にあたっては、陳列品の湿気管理に細心の注意が払われ、窓回りなどは実物大の模型を作成して検証を行うなど、展示物の保護に重点が置かれました。

また、関西における最初の民芸館がどこかについては、三宅忠一氏らが設立した日本工芸館との関係や、戦前に大阪に移築された三國荘との比較など、様々な議論が存在しますが、日本民藝協会は大阪日本民藝館が関西で初めての民芸館であるという立場をとっています。万博への民芸品出展の主な趣旨について、名誉館長の濱田庄司氏は、柳宗悦の「知る前にまず見よ」という言葉を中心に、民芸に対するこれまでの認識を改めて深く省察することにあったと述べており、その理念は現在も施設の運営に引き継がれています。万博での展示構成は、1968年に神奈川県立博物館で開催された日本民芸館展（日本民藝協会第22回全国大会）における民芸展示を手本とし、鈴木繁男氏を中心に企画されたと、初代館長の濱田庄司氏は語っています。

大阪日本民藝館は、大阪万博の遺産としてだけでなく、日本の民芸運動の歴史と精神を受け継ぎ、現代にその美と価値を伝え続ける貴重な存在と言えるでしょう。

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