大阪電気軌道デボ1400形電車

大阪電気軌道デボ1400形電車は、近畿日本[[鉄道]]（近鉄）の前身である大阪電気軌道（大軌）が1939年より製造した通勤形電車です。ここでは、同系の増備車である制御車のクボ1500形についても解説します。

概要

1940年（昭和15年）は、皇紀二千六百年にあたる記念すべき年でした。大軌沿線には、日本神話の建国の地とされる橿原に創建された橿原神宮があり、系列の参宮急行電鉄（参急）は、伊勢神宮への参宮速達路線でした。当時の国家神道における「聖地」沿線ということもあり、1938年頃から橿原神宮の神域拡張工事が勤労奉仕で実施され、乗客が集中しました。1940年には奉祝参拝客による輸送需要の大幅な増大が予想されました。

そこで両社は、1931年の参急本線全通以来の新形車大量投入で輸送力増強を図ることを決定しました。1939年以降、大軌には3扉ロングシート車の本形式が、参急には2扉クロスシート車のデ2227形と貴賓車の2600が投入されることとなりました。

これらの新型車は、窓配置、座席配置、便所の有無に違いはあったものの、車体の基本構造は共通化され、電装品や台車といった主要機器も共通設計となりました。

車種構成

本形式およびその同系車は、以下の21両が名古屋の日本車輌製造本店で製造されました。

デボ1400形制御電動車(Mc): デボ1400 - 1415（1939年12月竣工）
クボ1500形 [制御車]: クボ1500 - 1504（1940年10月竣工）

車体

車体設計はデボ1400・クボ1500の両形式で共通で、両端に運転台を設けた20m級半鋼製3扉ロングシート車です。妻面は中央に貫通路を設けた3枚窓構成で、左右窓の下部に鋳鋼製のアンチクライマーを装着しています。これは姉妹車である参急デ2227形と共通設計です。ただし、区間運転用で便所が設置されていないため、全て車掌台側にも妻窓を設けてある点が異なります。

窓配置はd1(1)D4D(1)3D(1)1d（d：乗務員扉、D：客用扉、(1)戸袋窓。数字：窓数）で、大軌の在来車に近い扉位置を維持しつつ、概ね参急デ2227形との共通性を保つ配置となっています。

側窓は2段上昇式で、下段には保護棒が1本備えられています。車体の基本構造は参急2200系のそれに準じ、軽量化を重視した型鋼通し台枠によるものです。電気溶接技術の進歩を受けてリベット接合を使用する箇所が減少し、外観の平滑化が進んでいます。

本形式や姉妹車であるデ2227形の外観を特徴付ける設計として、側柱を上方に延長して幕板を屋根肩部上方まで拡大し、雨樋を屋根肩部の上方に移動した張り上げ屋根構造が採用されています。これは当時の最新流行様式でした。

床面高さは1,270mmと高く、これは狭軌対応による主電動機のハウジング直径の増大などに伴うもので、青山峠越えの連続急勾配区間での冷却対策の必要もあって、在来のデ2200形に対して45mm引き上げとして余裕を持たせて設計されています。

車体塗色については、登場時は大阪電気軌道標準のダークグリーン1色でした。

主要機器

姉妹形式である参急デ2227形およびク3110形と共通の、参急デ2200系のそれを基本として、その後の情勢の変化を反映した設計変更が行われた機器が採用されています。

電装品

制御器はデ2200形用と同系の三菱電機ABF単位スイッチ式自動加速制御器を搭載しています。本形式そのものは上本町（現・大阪上本町） - 桜井までの大軌八木・桜井線区間での運用を主目的として製造されていますが、佐田までの参急線へ乗り入れる運用にも充当されることから、主制御器に抑速発電制動機能が付与されました。

主電動機は狭軌用の吊り掛け式直流直巻整流子電動機である三菱電機MB-266-AFを各台車に2基ずつ搭載しています。これは、鉄道省東海道本線が空襲等で使用不能になった際の代替線を求める軍部の要請で、参宮急行電鉄線の狭軌併用3線化が計画されたことに備えて採用されたものです。

台車

台車は日本車輌製造D22が採用されています。これはボールドウィンA形台車の模倣品の一つとして著名な、日本車両製造D形台車シリーズのバリエーションモデルの一つです。心皿荷重上限を22tと大きく取ってあり、主電動機の直径が増大したことを受け、冷却の必要もあって台車の軸距も延伸されています。

制御車であるクボ1500形も台車はデボ1400形と共通のD22を装着しています。

ブレーキ

デ2200形と同様、主制御器側からの指令による抑速発電制動を常用します。また、空制系についてもデ2200形との併結を考慮し、U自在弁によるAMU（デボ1400形）・ACU（クボ1500形）自動空気ブレーキ（Uブレーキ）を装備します。

運用

デボ1400形は竣工後、皇紀二千六百年の大輸送に充当され、主力車として大きな役割を果たしました。クボ1500形も秋の大輸送に投入され、大量の奉祝客を輸送しました。

紀元二千六百年輸送の主力車としての任が一段落してからは、大軌・参急線で青山町折り返しの普通列車に2両編成で充当されました。

1941年3月15日に実施された大軌の参急との合併、そしてそれに続く1944年6月1日の南海鉄道との合併による近畿日本[[鉄道]]の成立に伴い、形式称号がデボ1400・クボ1500形からモ1400・ク1500形へ変更されました。

戦後は連合軍の通達に基づく標識灯の1灯増設を行い、更にアンチクライマーと側窓保護棒の撤去が実施されました。1961年から1962年にかけてモ1401 - モ1410およびク1500形全車の片運転台化が順次実施されました。1963年秋より車体塗色がマルーンレッドに塗り替えられています。

その後も大阪線で長く重用されましたが、1974年から廃車が開始され、残った車両は電動貨車に格下げとなりました。1990年3月3日に全車廃車解体され、保存車は存在しません。

もう一度検索