大鴉 (1935年の映画)

1935年、アメリカ合衆国で公開されたホラー映画『大鴉(The Raven)』は、エドガー・アラン・ポーの同名詩から着想を得た作品です。ルー・ランダーズ監督、ボリス・カーロフとベラ・ルゴシという、当時を代表するホラー映画スターの共演により、大きな注目を集めました。

物語の中心人物は、エドガー・アラン・ポーの世界観に傾倒した天才外科医、リチャード・ヴォリン博士(ベラ・ルゴシ)。彼は脱走犯のエドモンド・ベイトマン(ボリス・カーロフ)を巧みに利用し、自身の屋敷に招いた人々を恐怖のどん底へと突き落とします。クレジット上はカーロフが主演とされていますが、物語の軸となるのはルゴシ演じるヴォリン博士と言えるでしょう。

あらすじは、交通事故で重傷を負ったダンサー、ジーンのサッチャー。彼女の婚約者である医師は、ヴォリン博士にしか救えないと判断し、手術を依頼します。当初は拒否されたものの、ジーンの父親の懇願により、ヴォリン博士は手術を引き受けます。手術は成功し、ジーンは回復しますが、ヴォリン博士の行動に、彼女の父親は不審を抱き始めます。

それは、ヴォリン博士がジーンに恋心を抱き、結婚を申し込んだことでした。しかし、ジーンには婚約者がおり、また年齢差も大きいため、父親はそれを拒絶します。

一方、ヴォリン博士のもとには整形手術を望む脱走犯ベイトマンが現れます。彼は醜い容姿ゆえに犯罪を繰り返し、整形によって更生したいと考えていました。ヴォリン博士は快諾しますが、手術の結果は失敗。更なる醜さを背負ったベイトマンは、ヴォリン博士に脅迫され、彼の命令に従うことになります。

ヴォリン博士は、ジーン、彼女の父親、婚約者を含むパーティーを開きます。真夜中、ベイトマンはジーンの父親を誘拐し、ヴォリン博士がポーの小説を模して作った拷問部屋へ連れて行きます。そこでは、振り子がゆっくりと近づいてくる恐ろしい拷問が待ち受けていました。同時に、ジーンと婚約者も別の仕掛け部屋に閉じ込められます。

しかし、ベイトマンは命がけでジーンたちを救出し、逆にヴォリン博士を閉じ込めます。ジーンたちは父親を救出し、危機を脱します。

この映画は、ボリス・カーロフを「メイクアップの達人」として宣伝するなど、ユニバーサル社による積極的なプロモーションが行われました。エドガー・アラン・ポーの詩との関連性も強調され、学生への鑑賞勧奨も行われました。しかし、拷問シーンや顔面破壊などの描写は、1935年の観客にとって受け入れがたいものだったようで、興行成績は振るわず、イギリスでは上映禁止となりました。

約30年後、カーロフは『The Raven』というタイトルの映画に出演していますが、前作とは全く異なる内容となっています。この後者の作品は、ロジャー・コーマン監督作品で、ヴィンセント・プライスやピーター・ローレ、ジャック・ニコルソンといった豪華キャストが共演しています。邦題は『忍者と悪女』となっています。

1935年の『大鴉』は、その過激な描写と豪華キャストにもかかわらず、興行的には成功とは言えなかったものの、ホラー映画史において特筆すべき作品として記憶されています。エドガー・アラン・ポーの世界観と、ベラ・ルゴシとボリス・カーロフという名優の共演は、多くの観客に衝撃と恐怖を与えただけでなく、後のホラー映画に大きな影響を与えたことは間違いありません。

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