天吉

天吉 (てんきち)

天吉は、神奈川県横浜市中区港町、関内駅近くの関内桜通り沿いに店を構える老舗の天ぷら店です。サザンオールスターズの原由子さんの実家としても広く知られています。

歴史

1872年（明治5年）に創業した天吉の歴史は、創業者である原庄蔵氏が川崎の武蔵小杉から横浜に進出し、屋台で営業を始めたことに始まります。当初は関内住吉町を拠点とし、その後、真金町の遊郭に近い山田町へと移転。当時は現在のような天ぷらではなく、アナゴやコハダなどを揚げた料理を提供していました。

二代目の元吉氏は、当時流行していた正ちゃん帽を被り、ユーモラスな身振り手振りで客を楽しませたことで、「天吉」の名を広く知らしめました。三代目の源蔵氏の時代には、賑町（現在の伊勢佐木町4丁目）で関東大震災に見舞われましたが、戦前・戦中にかけては横須賀海軍武官府指定食堂として営業を続けました。

第二次世界大戦で被災したものの、1946年にはバラックで営業を再開。1956年12月10日に現在の港町2丁目に店舗を構えました。原由子さんの著書『娘心にブルースを』によると、現在地への移転は彼女の誕生日の前日に行われたとのことです。移転当初は周辺は焼け野原でしたが、1959年に横浜市庁舎、1964年には根岸線関内駅が開業し、周辺は大きく発展しました。現在の店舗は2005年前後に建て替えられたものです。

特徴

天吉は、関内桜通りに面した一店舗のみで営業しており、多店舗展開は行っていません。看板メニューである「濱天丼」は、紋甲イカ、シロギス、小柱と芝海老のかき揚げ、そしてシシトウが乗った、やや小ぶりながらも上品な味わいが特徴です。三代目の源蔵氏が考案したかき揚げは、貝柱、シバエビ、三つ葉を使用しており、五代目に代替わりした現在でもその味は受け継がれています。

揚げ油には、ごま油とピーナッツオイルをブレンドしたものを使用。かつては本牧の海で獲れた魚介類を使用していましたが、現在は築地市場で仕入れています。

五代目の茂男氏は、食文化を通じた生活習慣病予防啓発活動に協力したことが評価され、2017年に横浜市から表彰を受けました。伝統を守りながらも、新しい試みにも積極的に取り組む姿勢が伺えます。

天吉は、横浜の歴史とともに歩んできた老舗の味を守りながら、地元の人々に愛され続けている天ぷら店です。

参考文献

原由子『娘心にブルースを』ソニー・マガジンズ、1998年。
横浜のれん会『わたしの好きな味』2001年。
原成男『酒と涙と男と天ぷら－横浜好日・天吉日和』神奈川新聞社、2005年。

外部リンク

天吉（横浜のれん会）

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