天寧寺 (彦根市)

天寧寺：彦根藩ゆかりの寺院と五百羅漢の霊場

滋賀県彦根市に位置する天寧寺は、曹洞宗に属する歴史深い寺院です。正式名称は萬年山天寧寺といい、聖観音菩薩を本尊として祀っています。「萩の寺」という雅な別名でも親しまれています。

悲しい歴史と供養の物語

天寧寺の創建には、彦根藩主井伊家に関わる悲しい物語が深く関わっています。寺伝によれば、彦根藩主井伊直中は、側室の若竹が不義の子を妊娠したという噂を耳にします。藩の法度に触れるとして、若竹は死罪に処せられました。しかし、後にその子の父が実は直中自身の嫡男、直清であったことが判明します。

自身の過ちを深く悔いた直中は、若竹と初孫の霊を慰め弔うため、高僧寂室堅光に相談。初代藩主井伊直政が実母の供養のために建てた宗徳寺を現在地に移転させ、文政2年（1819年）に再建、文政5年（1822年）頃に寺号を天寧寺と改めました。文政11年（1828年）には、五百羅漢像を安置する羅漢堂が建立されました。

幕末の大老、井伊直弼が桜田門外の変で暗殺された際に使用していた駕籠敷物が、現在も天寧寺に大切に保管されています。この遺品は、動乱の幕末期における井伊家の歴史を偲ばせる貴重な資料となっています。

見どころ

天寧寺境内には、数多くの見どころがあります。まず、本堂は文化8年（1811年）に宗徳寺の本堂として建てられたもので、歴史を感じさせる重厚な建築です。

庭園も魅力の一つです。「羅漢石庭」は、中根金作による作庭で、釈迦如来と十六羅漢を模した石が配置され、趣のある空間を演出しています。石州流庭園も美しく、十六体の羅漢像は、かつて16ケ国の大名から贈られたものと伝えられています。

羅漢堂に安置されている木造五百羅漢像は、彦根市指定有形文化財に指定されている名品です。京都の名工、駒井朝運の作で、その精緻な造形と表情は、見る者を圧倒します。「亡き親、子供、いとしい人に会いたくば、五百羅漢にこもれ」と言われるほど、それぞれの羅漢像の表情は多様で、訪れた人は必ず自分の探し求める人の顔を見つけることができると言われています。

その他、行者堂、井伊直弼供養塔、直弼の側近であった長野主膳の墓、大東義徹の墓など、歴史を物語る建造物や墓碑が点在しています。また、木造釈迦・十大弟子像ならびに十六羅漢・五百羅漢像も彦根市指定有形文化財に指定されています。

アクセス

天寧寺へのアクセスは、JR東海道本線（琵琶湖線）彦根駅から徒歩約15分、または駅からバスで天寧寺口まで3分です。名神高速道路彦根ICからも車で5分と、比較的アクセスしやすい立地にあります。

近江七福神（布袋尊）の札所にもなっている天寧寺は、歴史、文化、そして美しい自然を堪能できる、滋賀県彦根市の隠れた名所と言えるでしょう。五百羅漢像をはじめとする貴重な文化財、そして藩主の悲劇と供養の歴史を肌で感じながら、静寂な時を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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