天理河内本源氏物語

天理河内本：源氏物語研究における重要な写本

天理河内本は、天理大学天理図書館に所蔵されている源氏物語の写本です。54帖からなる源氏物語のうち、初音帖が欠けた53帖が現在残されています。この写本の特徴は、全帖を通じて河内本系統の本文を伝えている点にあります。

池田亀鑑と校本作成

天理河内本は、かつて著名な国文学者である池田亀鑑が所持していました。池田は、1926年から1942年にかけて『校本源氏物語』の作成に取り組みました。初期の段階では河内本を底本としていたと推測されていますが、後に青表紙本系統の大島本を底本とした『校異源氏物語』が完成しました。興味深いことに、『校本源氏物語』の底本として用いられた河内本写本は、後世の『校異源氏物語』には含まれていませんでした。

天理河内本の発見と位置づけ

戦後、天理図書館が所蔵するようになった源氏物語写本の中に、池田亀鑑が所持していたことを示す「桃園文庫」の印と、彼のメモ書きが付された写本が発見されました。この写本こそが、『校本源氏物語』の底本であったと考えられています。この発見は、長らく不明であった『校本源氏物語』の底本を特定する上で重要な手がかりとなりました。

天理河内本の本文と特徴

天理河内本は、全体として河内本系統の本文を継承しています。ただし、桐壺と椎本の帖は後世に補われた可能性があると池田亀鑑は指摘しています。現在、天理河内本単独の影印本や翻刻本は存在しませんが、『源氏物語別本集成 続』（2005年～刊行中）では写本記号「天」として、全帖が校合対象に採用されており、その本文を確認できます。

現代における活用

伊藤鉄也らの研究グループは、青表紙本系統を代表する大島本、河内本系統を代表する尾州家河内本に替わる写本として、それぞれ天理図書館所蔵の池田本と天理河内本を用いて校訂を行いました。さらに、別本系統を代表する陽明文庫本を加え、「三本対照校訂本文」を作成し、異なる系統の本文を比較検討できるテキストを提供しています。これは、源氏物語研究において、多角的な視点からの研究を可能にする重要な成果です。

まとめ

天理河内本は、その歴史的背景と本文の特徴から、源氏物語研究において極めて重要な写本です。池田亀鑑との関わり、河内本系統の本文の伝承、そして現代における研究への活用など、様々な側面からその価値を評価できます。今後の研究においても、天理河内本は重要な資料として活用され続けるでしょう。

参考文献

『源氏物語別本集成 続』
伊藤鉄也らの研究論文（具体的な論文名が必要）
* 『源氏物語に関する展観書目録』

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