天神山城の戦い

天神山城の戦い：備前・美作を揺るがした激戦の全貌

天神山城の戦いは、天正2年（1574年）から天正3年（1575年）にかけて、浦上宗景・三浦貞広と宇喜多直家との間で繰り広げられた戦いです。備前国・美作国に跨る広範囲で武力衝突が発生し、最終的には天神山城を巡る攻防戦で雌雄を決しました。

開戦までの複雑な経緯

宇喜多直家の台頭と独立

浦上宗景は、元々赤松氏の重臣でしたが独立し、毛利氏の支援を受けながら勢力を拡大。備前をほぼ統一し、美作・備中・播磨の一部を含む大名へと成長しました。その中で、宇喜多直家は浦上家中で勢力を拡大し、長船氏や岡氏を傘下に収め、備中に侵攻するなど勢威を振るいました。

しかし、直家は足利義昭に接近するなど独立の動きを強め、永禄12年（1569年）には浦上氏からの離反を宣言。軍事行動を開始し、浦上配下の国衆を破りました。その後、浦上軍に降伏し罪を赦免されましたが、事実上の独立を果たし、共通の敵である毛利氏に対抗するため、浦上氏との関係を一時的に修復しました。

美作三浦氏の復活と毛利包囲網

美作では、尼子再興軍の山中幸盛らが三浦貞広を支援し旧領復帰を果たさせました。三浦氏は大友宗麟・浦上宗景・尼子勝久ら反毛利勢力と同盟を結び、「毛利包囲網」を形成。浦上氏は織田信長との関係改善を図り、三好氏や香西水軍らと連携して児島攻略を狙いました。

激化する戦況と停戦期間

備芸・豊芸和平

浦上・宇喜多・能島水軍と毛利・三村の対立が激化し、能島水軍が毛利に反旗を翻すと、小早川隆景が鎮圧。備前児島の戦いでは浦上軍が勝利しましたが、備中では宇喜多軍が三村領を侵攻しました。毛利元就は足利義昭に和睦の周旋を依頼しましたが失敗。元亀3年（1572年）には足利義昭が和議を試みましたが、毛利輝元は反抗勢力への攻撃を開始しました。その後、備芸並びに豊芸和平が成立し、一時停戦となりましたが、毛利方にとって不利な内容であり、小早川隆景は不満を抱いていました。

3ヶ国支配の朱印状

天正元年（1573年）になると、毛利と大友・浦上との直接的な争いは減少しましたが、山名氏や尼子再興軍の反毛利活動は継続。浦上宗景は織田信長に謁見し、「備前・播磨・美作安堵の朱印」を得ましたが、宇喜多直家は毛利氏との連携を強化していきました。

天神山城の戦い勃発

直家による国衆切り崩し

天正2年（1574年）3月、直家は浦上氏との開戦に先立ち、三浦氏との連携を断つため、美作国衆を調略。岩屋城を奪取し、支配下に置きました。4月には浦上・宇喜多両軍が初めて衝突し、緒戦は宇喜多軍が勝利。その後も直家は美作の国衆を切り崩し、戦局を有利に進めました。

停戦期間と水面下の外交合戦

戦況を打開するため、宇喜多直家は小早川隆景に、浦上宗景は吉川元春に書状を送りました。毛利氏は宇喜多氏を支援することを決定し、三村元親は織田信長と同盟。宇喜多氏は三方を敵に囲まれることとなりましたが、毛利氏の迅速な対応により三村氏は滅亡しました。しかし、天正2年（1574年）11月から約5ヶ月間、両家の戦を示す書状が発見されておらず、停戦期間があったと推測されています。

浦上氏・美作三浦氏の滅亡

天正3年（1575年）1月からは、宇喜多派の国衆と美作三浦氏との対立が激化。3月には三浦軍が真木山城を奪取しました。4月、宇喜多直家は浦上久松丸を奉じて宗景打倒を掲げ再び兵を動かし、5月には佐古谷城を攻略。6月には三村氏が滅亡しました。7月、浦上宗景は三浦との連携を回復しようとしましたが失敗。8月頃より浦上氏を見限る者が続出し、9月上旬には天神山城が陥落し、浦上宗景は所領を追われました。美作の三浦貞広も降伏し、宇喜多直家は備前ほぼ全域、美作東部、播磨西部などに大きく所領を拡大しました。

合戦後の情勢と影響

浦上宗景は播磨へ逃走、三浦貞広は宇喜多氏預かりとなり、浦上・美作三浦両氏は勢力として滅亡。旧臣の多くは宇喜多氏に仕えました。反毛利同盟は崩壊し、毛利氏は東へ兵を進めることが可能となり、織田氏の勢力拡大を阻む要因となりました。織田信長は荒木村重を播磨に派遣し、浦上宗景の館を拵えさせました。その後、足利義昭が備後鞆に入り鞆幕府を開き、毛利氏と宇喜多氏が織田信長と対立しました。

もう一度検索