天竜川川下り船転覆死亡事故

天竜川川下り船転覆死亡事故の概要

2011年8月17日午後2時17分頃、静岡県浜松市天竜区を流れる天竜川で、「遠州天竜舟下り」の川下り船「第十一天竜丸」が転覆し、乗客ら5名が死亡する痛ましい水難事故が発生しました。この事故は、国土交通省運輸安全委員会によって「旅客船第十一天竜丸転覆事故」と命名されました。

「遠州天竜舟下り」は、天竜浜名湖鉄道株式会社が運営する観光事業で、浜松市天竜区の米沢乗船場から二俣下船場までの約6kmの区間を、約1時間かけて川を下るものでした。事故を起こした第十一天竜丸は、3隻連なった船団の中央に位置し、船頭2名と乗客21名（大人14名、中学生1名、小人5名、幼児1名）を乗せていました。

事故発生時、第十一天竜丸は二俣城址付近の湾曲部を航行中でした。その際、左岸の岩場に右舷船首部が乗り上げ、船体は左舷船尾部から浸水して転覆しました。乗船していた23名全員が川に投げ出され、救助されたものの、5名が帰らぬ人となりました。この事故により、「遠州天竜舟下り」は63年の歴史に幕を閉じ、天竜浜名湖鉄道は川下り事業から撤退しました。

事故原因と背景

事故現場は、川幅約55メートルの急流で、右にカーブし、左岸が岩場、右岸が河原となる場所でした。この地形が原因で、川底から湧き上がる噴流や、左岸に向かう強い流れ、右岸にさかのぼる反流が発生していました。第十一天竜丸は、これらの複雑な流れに翻弄され、制御不能となり、左岸の岩場に衝突したとされています。

また、事故当時、乗客および乗員は救命胴衣を着用していませんでした。船には大人用の救命クッションが備え付けられていましたが、座布団代わりに使うよう指示されていたとのことです。中学生と小人には小児用救命胴衣が配布されていましたが、常時着用させる措置は講じられていませんでした。幼児については、小児用救命胴衣が配布されたかどうか、証言が食い違っています。運輸安全委員会の報告書では、幼児用の救命胴衣が適切に備えられていなかった可能性を指摘しています。

さらに、船の転覆を想定した訓練やマニュアルがなかったことも問題視されました。年1回、乗客が川に落ちた場合の対応訓練は実施されていましたが、転覆時の救助手順は定められていませんでした。

刑事裁判

この事故の責任を問い、天竜浜名湖鉄道の営業課長、事故当時船首で操船していた船頭、船頭主任の3名が業務上過失致死の罪に問われました。静岡地方裁判所は、3人に注意義務違反があったと認定し、執行猶予付きの有罪判決を下しました。しかし、船頭主任は東京高等裁判所に控訴し、二審では「安全責任者とは言えない」として逆転無罪となりました。この裁判は、安全管理体制の責任所在を明確にすることの難しさを示唆しています。

慰霊と教訓

天竜浜名湖鉄道は、事故後、川下り事業を廃止し、事故現場の上流に慰霊碑を建立しました。毎年8月17日には、関係者が集まり、追悼慰霊式が執り行われています。この事故は、自然の中で行う観光事業には、常に危険が伴うことを私たちに教えています。安全管理体制の徹底、救命胴衣の適切な着用、そして、緊急時の対応訓練の重要性を、私たちは決して忘れてはなりません。

この事故は、同様の川下り事業を行う他の事業者にとっても、大きな教訓となりました。安全対策の重要性を再認識し、二度とこのような悲劇を繰り返さないために、最大限の努力を続けていく必要があります。

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