天蓋の聖母 (ラファエロ)

ラファエロの『天蓋の聖母』について

『天蓋の聖母』（La Madonna del Baldacchino）は、イタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオが1508年に製作した祭壇画で、正式には「玉座に座る聖母子と聖ペトロ、聖ベルナルドゥス、聖アウグスティヌス、聖ライネリウス」と呼ばれています。この作品は、ラファエロがフィレンツェ時代に発注を受けた唯一の大型祭壇画であり、特にその天蓋部分が特徴的であることから通称『天蓋の聖母』と名付けられました。作品は現在フィレンツェのパラティーナ美術館に所蔵されています。

制作の背景

祭壇画は1507年にサント・スピリト教会内のデイ家の礼拝堂のために制作が開始されました。ラファエロがこの作品に取り組んでいたことは、彼の手紙や、ジョルジョ・ヴァザーリの著作『画家・彫刻家・建築家列伝』からも確認されます。しかし、教皇ユリウス2世による招聘を受けたラファエロはすぐにローマに移ってしまい、この作品は未完成のまま放置されてしまいました。

作品の特徴

『天蓋の聖母』では、玉座に座る聖母子とその周囲に4人の聖人が描かれています。クレルヴォーの聖ベルナルドゥス、聖ペトロ、聖アウグスティヌスは特定されており、画面の左奥には聖ライネリウス, 誰か別の聖人かと言われている存在も含まれています。聖ライネリウスは、かつて放蕩な生活をしていたが後にキリスト教に目覚め、聖地を訪れた後に多くの奇跡を起こしたことで知られています。

玉座の左側には聖ベルナルドゥスが描かれ、シトー会の白い修道服を着て、若々しい姿で現れています。また左前景には聖ペトロが天国の鍵を持ち、右前景には司教冠をかぶった聖アウグスティヌスがいます。聖アウグスティヌスは聖母子を指し示し、鑑賞者たちとの視線を交わす存在感があります。作品の上には天蓋があり、2人の天使がそれを持ち上げています。

背景には、祭壇画が教会を象徴する建築物内に配置されていることを示すための様々な構造物が描かれています。画面の端にはコリントス式柱頭を持つ柱があり、その背後には半円状の空間が広がっています。しかし、1697年にメディチ家が祭壇画を購入した際、画面上部を拡張されたことで、後の画家ニッコロ・カッサーナによる要素も含まれています。

先行作品の影響

ラファエロはこの作品において、人物配置や感情表現の繊細さを巧みに表現しています。この祭壇画での技術は、彼の前の時代の芸術家、特にフラ・バルトロメオやレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロと匹敵するもので、フィレンツェの芸術を十分に吸収したことを実感させます。

特に控えめさと記念碑的な側面の両方を兼ね備えた構図は、ヴェネツィア派やフラ・バルトロメオからの影響を色濃く反映しています。例えば、玉座を中心に特色ある人物たちの姿は異なる表情とポーズを持ち、越境的な雰囲気を醸し出しています。

科学的調査と評価

ラファエロの死後、この祭壇画には他の画家による加筆が見られたのではないかとの疑惑がありましたが、1987年から1991年にかけて行われたフィレンツェでの修復作業により、ラファエロ自身による作品であることが証明されました。修復後の情報は、ラファエロがフィレンツェを去った当時の姿が保たれていることを示しています。

作品の来歴

ラファエロが未完成の状態で残した祭壇画は、その後新たに祭壇画が発注されることとなった。デイ家礼拝堂の祭壇にはロッソ・フィオレンティーノによる新しい作品が設置されました。ラファエロの作品はヨハン・ダーフィト・パサヴァンを経てトゥリーニ家に渡り、最終的にはメディチ家が所有することになりました。1697年の購入時に祭壇画は夜間密かに持ち出され、その後多くの場所を移動した結果、現在は「サトゥルヌスの間」にて展示されています。

特別展と影響

2023年には芳瑛の特別展が企画され、約320年ぶりにペーシャ大聖堂への一時帰還が実現しました。この展覧会は、ウフィツィ美術館による「ウフィツィ・ディフージ」として知られるプロジェクトの一環として行われ、多くの人々の関心を集めました。

ラファエロの『天蓋の聖母』は、彼の技術や人物描写の優れた技術を示す重要な作品であり、美術史におけるその影響は今なお多くの芸術家によって参照され続けています。

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