太和殿

太和殿：皇帝権力の象徴

太和殿（たいわでん）は、中国・北京の故宮博物院に位置する紫禁城の中心を構成する建造物です。明清代には、皇帝の即位や皇后冊立など、国家の重要な儀式が執り行われる場所でした。その壮麗な建築と豪華な装飾は、皇帝の権力を象徴するものとして、特別な意味を持っています。

歴史

太和殿は、1406年に建設が開始され、1420年に完成しました。当初は「奉天殿」と呼ばれ、宗教儀礼の場として使用されていました。しかし、明代には何度か火災に見舞われ、その都度再建されました。清代に入ると「太和殿」と改称され、大規模な改修が行われました。康熙帝の時代には、太監の失火により焼失し、その後再建されましたが、明代の約半分の大きさに縮小されました。

辛亥革命後、一時的に宣統帝の居所となりましたが、袁世凱が帝制復活を企てると、宮殿として使用され、扁額から満洲語が削除されました。

建築概要

太和殿は、長さ63.96メートル、幅37メートル、面積2,368平方メートル。高さは26.92メートルですが、基壇を含めると35.05メートルとなり、中国最大の木造建築物です。屋根は、四方に傾斜する優雅な廡殿頂（もやぶき）で、両端には瑠璃製の巨大な鴟吻（しふん）が設置されています。

72本の柱は、当初クスノキで作られましたが、現在はマツ材が用いられています。玉座の周囲には、故宮で唯一の構造である瀝粉蟠竜金柱（れきふんばんりゅうきんちゅう）が配置され、内部には天花や藻井などの装飾が施されています。

設計詳細

内部構造

太和殿の内部には、9頭の竜が彫刻されたクスノキ製の玉座「九竜竜椅」が置かれています。玉座は朱塗りの台座の上に置かれ、後方には竜が彫刻された金漆屏風が立てられています。天井には、乾隆帝の宸筆「建極綏猷（けんきょくすいゆう）」が掲げられています。

玉座の上部には、蟠竜が口に「軒轅鏡（けんえんきょう）」と呼ばれる銅珠を咥えています。これは、天命を受けていない者が玉座に座ると鏡が落ち、その者を殺害すると伝えられています。そのため、袁世凱は帝位についた際、玉座をずらして座ったとされています。

内部装飾

太和殿で使用されている煉瓦は「金磚（きんせん）」と呼ばれ、蘇州地方で生産される高級品です。焼成に半年以上かかるものから厳選され、太和殿全体で4,718枚が使用されています。

天井には、水を意味する藻井が描かれ、その他にも竜をモチーフとした図案や大量の金が使用されています。

殿頂装飾

太和殿の屋根の両端に設置された鴟吻は、故宮最大のものです。13枚の瑠璃で構成され、重さは4.3トンにもなります。

垂脊の下部には、鳳凰に乗った仙人や、竜、鳳凰、獅子など10体の神獣が並んでいます。これらは装飾としての意味だけでなく、国家と国民の安泰を願う意味も込められています。

清代の用途

清代には、皇帝の即位、大婚、皇后冊立、遠征出征などの重要な儀式が太和殿で行われました。また、皇帝が群臣の祝賀を受ける朝会や、大臣との謁見、宴会なども開催されました。

儀式が行われていないときは、太和殿は無人の状態でした。

関連項目

故宮
紫禁城

太和殿は、中国の歴史と文化を象徴する重要な建造物であり、その壮麗な姿は訪れる人々を魅了し続けています。

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