太地いさな組合

太地いさな組合について

太地いさな組合は、和歌山県太地町漁業協同組合に所属する、小型鯨類の追い込み漁を専門とする漁業共同体です。古くから「いさな」（勇魚）と呼ばれてきたクジラの伝統的な漁法を継承しています。太地町沖はクジラの回遊ルートにあたり、中世には「鯨が昼寝をするところ」と言われるほど、多くのクジラが目撃されていました。

小型鯨類漁の発展

太地町における小型鯨類の捕獲は、原始時代から行われていたと考えられていますが、具体的な時期は不明です。1606年には大規模な捕鯨組織が編成され、1675年には網を用いた捕鯨技術が開発されるなど、江戸時代には捕鯨が盛んになりました。同時に、手銛や網を用いた小型鯨類の捕獲も行われていました。

その後、漁法は以下の3つに発展しました。

動力船や捕鯨銃を使用する小型沿岸捕鯨業
手投げ銛漁法による突きん棒漁業
網を利用した追い込み漁業

戦後の発展と組合の設立

戦後、太地町の漁師たちは、ゴンドウクジラの漁や南氷洋捕鯨に従事した後、沿岸域で鉄砲銃を用いた「イルカ突きん棒漁業」を開始し、「イルカ突きん棒組合」を設立しました。

1969年には、太地町立くじらの博物館からイルカの捕獲要請を受け、追い込み漁を再開。当初は漁の成功率が低かったものの、伊豆での研修を経て技術を向上させました。その後、小型鯨類の価値が上がり、他の捕獲グループも誕生しましたが、資源保護のため両者は合併し、1988年に太地いさな組合として発足しました。

漁の特徴

太地いさな組合は、小型鯨類の追い込み漁を主な漁法としています。

漁期:
ゴンドウ類：9月～4月
イルカ類：9月～2月
ゴンドウ類の最盛期は9月～12月と4月
捕獲対象:
* マゴンドウ、ハナゴンドウ、オキゴンドウ、ハンドウイルカ、スジイルカ、マダライルカ、カマイルカ

追い込み漁の方法

漁は毎年9月1日に解禁され、沿岸から15マイル以内の海域で行われます。漁船団は、沖合でイルカなどの群れを発見すると、鉄パイプで海面を叩きながら、捕獲網を設置した湾に追い込みます。追い込みには1時間から1日かかることもあります。ベテラン漁師は、クジラの動きを予測し、船間の距離や音を出すタイミングを指示します。

捕獲されたクジラは、内臓を取り除き血抜きした後、市場に出荷されます。解体は陸上で行われ、イルカ類は約5～10分、ゴンドウ類は約15分程度で完了します。捕殺は、苦痛を軽減するため脊髄切断法を用いています。

また、追い込み漁は生きたまま捕獲できるため、水族館への販売も行われています。ただし、水族館向けの個体には、雌であることや体長などの条件があり、条件を満たす個体は少ないのが現状です。

漁閑期と組合の位置づけ

5月から8月にかけては漁閑期となり、カツオけんけん釣りやイワシの棒受け網漁、貝類の磯潜りなど、様々な漁業が行われます。

太地いさな組合は、太地町漁業協同組合の一部であり、同漁協の年間水揚金額の約3分の1を捕鯨が占めています。太地町は、地理的条件から農業や産業の育成が難しく、財政を地方交付税に頼る状況にあるため、捕鯨は重要な産業となっています。

社会貢献活動

いさな組合は、鯨肉をイベントへの無償提供や、学校への寄付などを行っています。東日本大震災の際には、被災地へ鯨肉の炊き出しを行いました。

メディア報道と課題

NHKをはじめとするメディアが、いさな組合の活動や地域社会、反捕鯨団体との対立などをドキュメンタリーとして報道しています。これらの報道は、捕鯨に対する理解を深める一方で、国際的な批判も招いています。

2009年の反捕鯨映画「THE COVE」以降、シーシェパードなどの反捕鯨団体による妨害活動が激化しており、漁業関係者は、器物損壊や暴行、盗撮、脅迫などの被害に遭っています。

反捕鯨団体への対処

いさな組合や太地町は、反捕鯨団体による妨害活動に対し、法的措置や国会、県議会での議論を通じて対処しています。日本政府もイルカ漁は日本の文化であるとして支持を表明していますが、依然として妨害活動は続いており、根本的な解決には至っていません。

太地いさな組合は、伝統的な漁法を守りながら、地域経済を支える重要な役割を担っていますが、同時に、国際的な批判や妨害活動といった課題にも直面しています。

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