太子党

中国共産党において、「太子党」とは、党や国家の最高指導部を経験した高級幹部の子弟を中心に形成される、特権的な地位にある人々の総称です。彼らは、親が築いた地位や影響力、そして世代を超えて受け継がれる広範な人脈を最大限に活用し、中国の政界、経済界、さらには社会全般にわたって無視できない存在感を示しています。

この呼称に含まれる「太子」は、日本語の「皇太子」と同様に、後継者や重要な地位にある人物の子を意味します。しかし、「太子党」という名称自体は、特定の組織名や彼らが自ら名乗るものではなく、主にメディアが便宜上使用しているものです。

彼らが享受する特権は多岐にわたります。党組織内での出世はもちろんのこと、親のコネクションを生かして、国有企業や有力民間企業の経営に深く関与することもあります。こうした特権は、国家レベルから地方の県や郷といった末端組織に至るまで広く見られ、親族の就職斡旋や、いわゆる裏口入学といった形で現れることも珍しくありません。

こうした慣習の根底には、中国の伝統的な大家族主義の考え方があるとされます。これは、信頼できる身内で周囲を固めることで、自身の地位の安定を図り、同時に一族全体の結束と繁栄を目指すものです。高級幹部が子弟や親族を要職に就けることは、この伝統的な考え方に基づいた、権力と財産の世襲、そして一族の永続性を追求する行動様式と解釈できます。

「太子党」はしばしば、共通の利益を代表する一つの強固な派閥として報じられることもありますが、実際にはその内部は必ずしも一枚岩ではありません。それぞれの親が属していた政治グループや、各々が持つ異なる政治的立場や利害によって、人間関係は複雑であり、常に連携しているわけではありません。

また、「太子党」という呼称は、世襲によって権力を継承する指導者の子弟という文脈で、中国国外の政治家に対しても拡張して使用されることがあります。例えば、韓国の朴槿恵元大統領や日本の安倍晋三元首相が、同時期に最高指導者となった中国の習近平国家主席（彼自身も太子党出身とされています）と並べて、中華圏のメディアで言及されるケースが見られました。さらに、北朝鮮の金正日総書記の長男であった金正男氏が中国国内で保護されていた時期に「太子党」と呼ばれることがあったり、その弟である金正哲氏が主宰する集団が「北朝鮮版太子党」と称されたりすることもありました。

「太子党」に関連する概念として、より具体的な世代や背景を示す呼称も存在します。中華人民共和国の建国や初期の混乱期における第二次国共内戦などで顕著な貢献をした高級幹部の子弟は特に「紅二代」と呼ばれ、それ以降の世代の高級幹部の子弟全般は「官二代」と呼ばれることがあります。「太子党」はこれらの呼称と重なり合う部分が多いですが、特に政治的・経済的な影響力や特権に焦点を当てた場合に用いられる傾向があります。

近年では、共産党内部で出世する高官に娘が増加したり、現在の指導部に娘しかいないケースがあることから、「お姫様」を意味する「公主（ゴンジュ）」を用いたスラングとして「公主党」という言葉も派生しています。

「太子党」は、しばしば、血縁やコネクションよりも実力や専門知識を重視する傾向があるとされる若手エリート集団、中国共産主義青年団（共青団）と対比されることがあります。共青団出身者はテクノクラート的な道を歩むことが多い一方、太子党はより直接的に権力や経済的権益に近いポストに就く傾向が指摘されることがあります。

多くの著名な中国共産党の指導者や政治家の名前が、「太子党」のメンバーやその関係者として挙げられます。例えば、建国の父の一人である毛沢東の孫、鄧小平の子女たち、そして現在の最高指導者である習近平国家主席も、父・習仲勲が元高級幹部であることから「太子党」の代表的な存在とされています。彼らの中には、党や国家の要職に就いた人物だけでなく、経済界で大きな成功を収めた者も含まれています。

代表的な関係者（一部）

習近平: 習仲勲の子。現中国共産党総書記・国家主席。
李鵬: 周恩来の養子。元国務院総理。
鄧樸方: 鄧小平の子。元全国政治協商会議副主席。
薄熙来: 薄一波の子。元重慶市党委書記。
兪正声: 兪啓威の子。元中央政治局常務委員。
王岐山: 姚依林の娘婿。元国家副主席。

太子党の存在は、中国社会における縁故主義や特権階級の問題を語る上で避けては通れないテーマであり、その影響力や動向は、中国の今後の政治経済を占う上でも常に注目されています。関連する概念として「裸官」（蓄財を海外に移し家族を海外に移住させる高官）や「紅五類」（太子党のルーツとされる階級）などがあり、中国の階層社会や権力構造を理解する上で重要なキーワードとなっています。

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