太平洋岸自転車道

太平洋岸自転車道とは

太平洋岸自転車道は、日本の太平洋沿岸部を走る、総延長約1200キロメートルに及ぶ長距離自転車道ネットワークです。千葉県銚子市を起点とし、太平洋沿岸を南下して和歌山県和歌山市の加太海岸に至ります。複数のルートが設定されている区間を含めると、その総延長は約1400キロメートルにもなります。この自転車道は、国土交通省をはじめとする国と、沿線6県が連携して整備を進めており、太平洋岸自転車道推進協議会が組織されています。標識や表示の統一など、利用者の利便性向上のための取り組みが進められ、2020年東京オリンピックを見据えた整備目標が掲げられていました。その結果、2021年1月には主要な整備が完了し、第二次ナショナルサイクルルートに指定されました。日本の美しい海岸線や多様な地域文化に触れながら、壮大な自転車の旅を楽しむことができるように設計されています。

歴史的背景と整備の目的

この大規模な自転車道の構想は、昭和40年代にまで遡ります。当時の急激なモータリゼーションの進展による交通事故の増加や、レジャーとしてのサイクリングへの関心の高まりが背景にありました。昭和41年（1966年）に設立された自転車道路建設促進協議会が中心となり、安全な自転車通行空間の確保を目指す活動が行われました。昭和43年には「全国一周自転車道路網構想」が発表され、その第一弾として太平洋岸沿いのルート整備が提案されました。これらの動きが実を結び、自転車道の整備等に関する法律が制定され、国による大規模自転車道整備事業の一環として太平洋岸自転車道が具体的に計画されることになります。当初から、自転車専用の通行空間を確保することや、サイクリングをレクリエーションとして楽しむための役割が期待されていました。

ルートの構成と現在の整備状況

現在の太平洋岸自転車道は、自転車専用道路として整備された区間と、既存の車道に自転車の通行位置を示す標識（ナビラインや矢羽根）を設置することで自転車と自動車が共存する「車道混在区間」によって構成されています。大規模自転車道事業として過去に専用道として整備された区間もありますが、ルート全体の専用道路区間は約196キロメートルにとどまり、大部分は車道混在区間となっています。これは、限られた予算や維持管理の負担などを考慮し、既存の道路を有効活用する方針が取られたためです。また、ルート上には、東京湾口（浦賀水道）や伊勢湾口（伊良湖水道）といった海上区間が存在し、これらの区間はフェリーを利用して渡航することが想定されています。

サイクリストを支える連携サービス・施設

長距離サイクリングをより快適に、安全に行うため、ルート沿いでは様々なサービスや施設が連携しています。特に重要なのが、自転車をそのまま列車に載せられる「サイクルトレイン」の運行です。JR東日本の房総方面への「B.B.BASE」をはじめ、伊豆急行線、伊豆箱根鉄道駿豆線、豊橋鉄道渥美線、近畿日本鉄道の一部区間、JR西日本の紀勢本線の一部区間などで、条件付きながら利用可能です。これにより、体力に応じた区間だけを走行したり、悪天候時でも移動手段を確保したりすることが可能になります。さらに、ナショナルサイクルルートの要件として、ルートの主要な拠点に「ゲートウェイ施設」が設けられています。これらは、情報提供、休憩、飲食、物販などの機能を持つ、サイクリストの活動を支援するための施設であり、主要駅、道の駅、空港、ホテルなどが指定されています。

主なゲートウェイ施設例

千葉県：銚子駅、上総一ノ宮駅、勝浦駅、安房鴨川駅、館山駅、浜金谷港
神奈川県：柳島スポーツ公園
静岡県：伊豆高原駅、道の駅伊豆ゲートウェイ函南、清水駅、浜松駅、弁天島駅
愛知県：道の駅とよはし、道の駅伊良湖クリスタルポルト
三重県：鳥羽駅
和歌山県：南紀白浜空港、SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE、わかやままるしぇ（計画中）

主な構成路線

太平洋岸自転車道は、大規模自転車道事業によって整備された複数の自転車歩行者専用道路を核としています。例えば、千葉県の和田白浜館山自転車道線や九十九里一宮大原自転車道線、神奈川県の湘南海岸・砂浜のみち、静岡県の静岡御前崎自転車道線や浜松御前崎自転車道線、愛知県の田原豊橋自転車道線、三重県の磯部大王自転車道線、和歌山県の白浜日置川自転車道線などがその一部です。これらの専用道区間は、自動車の通行から隔離されており、比較的安全にサイクリングを楽しむことができます。特に静岡御前崎自転車道線の一部では、廃線となった静岡鉄道駿遠線の線路跡が自転車道として生まれ変わるなど、地域の歴史を活かした整備も行われています。

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