太田典礼

太田典礼の生涯：産婦人科医、政治家、そして安楽死運動の先駆者

太田典礼（おおた てんれい、旧名：武夫）は、1900年10月7日に生まれ、1985年12月5日にその生涯を閉じました。彼は、産婦人科医としての顔を持つ一方で、政治家、そして安楽死運動の先駆者としても知られる人物です。九州帝国大学医学部を卒業後、京都帝国大学大学院で産婦人科を専攻し、医学博士の学位を取得しました。太田は、産児制限と安楽死を強く主張し、その思想は社会に大きな影響を与えました。

産児制限と「太田リング」

太田は、学生時代にマーガレット・サンガーの産児制限思想に触れ、女性の負担軽減のために避妊や人工妊娠中絶の運動を始めました。彼は、子宮内避妊器具「太田リング」を考案し、その普及に尽力しました。これは、当時の日本において非常に画期的なものであり、産児制限運動の推進に大きく貢献しました。また、加藤シヅエらとともに「優生保護法」（現在の母体保護法）の制定に尽力したことも、彼の重要な業績の一つです。

政治家としての活動

太田は、政治の世界にも足を踏み入れ、1947年には日本社会党公認で衆議院議員に当選しました。しかし、1949年の選挙で落選し、その後は政界を引退しました。短い議員活動ではありましたが、優生保護法の制定に尽力したことは、彼の政治家としての重要な功績です。

安楽死運動の推進

太田は、日本の安楽死運動の第一人者としても知られています。1976年には、「安楽死協会」（のちの日本尊厳死協会）を設立し、初代理事長に就任しました。彼は、尊厳ある死の実現を強く訴え、安楽死の合法化を求めました。

過激な発言とその批判

しかし、太田の言動には、強い批判も多く寄せられました。彼は、高齢者や障害者に対する過激な発言を繰り返し、物議を醸しました。例えば、「もはや社会的に何の役にも立たなくなった老人は、社会的罪悪であり、孤独がその報いだ」と主張したり、障害者について「劣等遺伝による障害児の出生を防止することも怠ってはならない」と述べたりしました。また、「植物人間は、人格のある人間だとは思ってません。無用の者は社会から消えるべきだ」という発言も、社会的な反発を招きました。これらの発言は、人道的な観点から見て問題があり、多くの人々から非難されました。

「日本尊厳死協会」への改称

批判の高まりを受け、太田は1983年に「安楽死協会」を「日本尊厳死協会」に改称しました。もともと太田は「尊厳死」という用語を批判していましたが、「安楽死」の持つマイナスイメージを払拭し、語感の良い「尊厳死」に変えることで世間の批判を和らげようとしたのです。この改称は、太田の思想の変化を示すものではなく、あくまでイメージ戦略の一環であったと考えられています。

晩年と死

晩年の太田は、体調を崩し、入院生活を送りました。しかし、彼はチューブに繋がれて生きるような延命措置を拒否し、安楽死を望んでいました。自らが提唱した安楽死を、自身の最期に望んでいたことは、彼の思想を象徴する出来事と言えるでしょう。1985年12月5日、療養生活を送っていた太田は、85歳でその生涯を閉じました。

太田典礼の著作

太田は、数多くの著作を執筆し、その思想を広く社会に伝えました。

主な著作には、以下のようなものがあります。

『産児調節の新知識』 (1935)
『産兒制限の知識』 (1946)
『性の科学と倫理』 (1947)
『安楽死のすすめ』 (1973)
『太田リングの記録』 (1974)
『反骨医師の人生 太田典礼自伝』 (1980)
* 『死はタブーか 日本人の死生観を問い直す』 (1982)

これらの著作は、太田の思想を理解する上で非常に重要な資料です。

太田典礼の遺産

太田典礼は、産婦人科医、政治家、そして安楽死運動の先駆者として、日本の医学、政治、そして社会に大きな足跡を残しました。彼の思想は、今日においても議論の対象となっており、その功績と過激な発言は、多方面から評価されています。

太田の業績は、産児制限や避妊に関する知識の普及、優生保護法の制定、そして安楽死運動の推進など、多岐にわたります。しかし、その一方で、過激な発言や差別的な思想も持ち合わせており、その功績と負の側面を合わせて理解する必要があるでしょう。太田典礼という人物を深く理解することは、現代社会が抱える課題を考える上で、非常に重要な意味を持つと言えます。

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