太田橋 (木曽川)

太田橋

岐阜県美濃加茂市と可児市の市境を流れる木曽川に架かる太田橋は、現在は市道御門今渡線の一部を構成する重要な橋梁です。形式はワーレントラス橋を採用しており、特筆すべきは、岐阜県において初めて建設された近代的道路鋼橋であるという点です。この歴史的・技術的な価値が認められ、土木学会によって選奨土木遺産に選定されています。

歴史的変遷

太田橋の建設は、大正末期にあたる1924年（大正14年）に着工され、1926年（大正15年）末に完成しました。当時の旧道路法に基づく国道14号線の一部として、東京と京都を結ぶ重要なルート上に位置づけられていました。完成後、大正天皇崩御の影響で延期されていた渡橋式は、翌年の1927年（昭和2年）2月10日に盛大に執り行われ、岐阜県知事らが出席しました。

その後、この橋の国道指定は幾度か変更されます。1934年（昭和9年）には国道8号に、1952年（昭和27年）には新道路法に基づく一級国道21号（現在の岐阜県瑞浪市から滋賀県米原市に至る区間）の橋となります。さらに1965年（昭和40年）の道路法改正を経て、一般国道21号の一部として機能しました。

橋の利用状況が大きく変わったのは、1983年（昭和58年）に上流側に並行して新しい橋（新太田橋）が開通したことに伴います。これにより、太田橋は国道248号線に指定変更されますが、その後、国道248号の可児バイパスが全線開通したことで、国道の指定から外れ、現在は可児市と美濃加茂市の市道として管理されています。特に、2009年（平成21年）4月からは美濃加茂市の管理する市道御門今渡線の一部となりました。

近代に入ってからの改修も行われています。2008年（平成20年）8月には、従来の車道橋に加えて歩行者用の側道橋が増設され、同時に橋全体の耐震補強工事も完了しました。そして、2011年（平成23年）10月には、その長い歴史と土木技術における貢献が評価され、土木学会選奨土木遺産に晴れて選定されました。

橋の諸元

太田橋は、車道橋と側道橋（歩道）の二つの構造からなります。

車道橋
供用開始：1926年（大正15年）2月
延長：218.0メートル
幅員：6.4メートル
区間：岐阜県美濃加茂市御門町 - 岐阜県可児市今渡

側道橋（歩道）
供用開始：2008年（平成20年）8月11日
延長：218.4メートル
幅員：3.0メートル
区間：岐阜県美濃加茂市御門町 - 岐阜県可児市今渡

「太田の渡し」の記憶

太田橋が建設される以前、江戸時代の中山道において、この場所で木曽川を渡る手段は橋ではなく渡し船に限られていました。これが「太田の渡し」として知られています。この渡しは、対岸の太田と今渡を結び、旅人や物資の輸送を担っていましたが、大変な難所として知られていました。「木曽の桟（かけはし） 太田の渡し 碓氷峠がなくばよい」という歌に詠われるほど、木曽の桟や碓氷峠と並ぶ「中山道三大難所」の一つに数えられていました。明治時代には、より効率的なワイヤー牽引式の岡田式渡船も導入された時期がありました。

1926年に近代的な太田橋が完成したことで、その翌年の1927年に長きにわたる「太田の渡し」の歴史は幕を閉じました。現在、かつて渡し船の発着場であった両岸の跡地は史跡に指定されており、特に美濃加茂市側の渡船場跡には当時のものと思われる石畳が良好な状態で残されています。この石畳などの遺構は、往時の様子を偲ばせる貴重な歴史遺産として、地域では観光資源としての活用が模索されています。また、近年では歴史イベントの一環として、2022年11月3日には「日本ライン・KISOGAWA River To Summit」のプレイベントとして「太田の渡し」が一時的に再現運行され、多くの関心を集めました。

日本ライン下りの舟発着場も太田橋のすぐ下流に位置しており、この場所が古くから水運・陸運の要衝であったことを今に伝えています。

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